日本生理学雑誌 第77巻6号

CONTENTS

表紙の説明

〈表紙の図〉

第92 回日本生理学会大会 演題番号:P2-196

演題名:洞房結節細胞におけるミトコンドリア―筋小胞体クロストークの役割

Crosstalk between mitochondria and sarcoplasmic reticulum in sinoatrial node cells

演者:竹内綾子1,堀口和秀2,飯野 哲2,深澤有吾3,松岡 達1

所属:1福井大・医・統合生理,2福井大・医・人体解剖・神経,3福井大・医・組織細胞形態・神経

我々は,培養心筋細胞HL-1 において,ミトコンドリアNa+-Ca2+ 交換輸送体NCLX がミトコンドリア―筋小胞体クロストークを介して筋小胞体Ca2+ 濃度を調節し,拍動リズムを制御することを報告した(Takeuchi et al., 2013).しかし,実心臓のペースメーカ細胞である洞房結節細胞におけるミトコンドリア―筋小胞体クロストークの有無・役割は不明である.そこで,マウス洞房結節細胞の電子顕微鏡解析と数理モデル解析により,洞房結節細胞におけるミトコンドリア―筋小胞体クロストークを調べた.  代表的洞房結節細胞数理モデルとして,筋小胞体からのCa2+ 放出で主にリズムが作られるMaltsev and Lakatta model(ML model; Maltsev and Lakatta, 2009)と,細胞膜イオンチャネルが主にリズムを生成するHimeno model(Himeno et al., 2010)があるが,両モデルとも,実洞房結節細胞のミトコンドリア,筋小胞体容積が考慮されていない.我々は,マウス洞房結節の電子顕微鏡像の解析から,ミトコンドリア,筋小胞体の細胞断面積に対する面積比はそれぞれ15%,4% であり,殆どのミトコンドリアが筋小胞体に近接(50nm)し,筋小胞体の約35% がミトコンドリアの近傍(50nm)に局在することを明らかにした.新たに得られた解剖学的データを両数理モデルに導入し,精緻な洞房結節細胞数理モデルを構築した(図A. New ML model,図B. New Himeno model).NCLX 抑制シミュレーションを行ったところ,いずれのモデルでもNCLX 抑制に伴い筋小胞体Ca2+ 含量が減少したことから,NCLX を介したミトコンドリア―筋小胞体クロストークが存在することが示された.しかし,NCLX 抑制によりNew ML model では拍動リズム(cycle length)が遅延したのに対し,New Himeno model では効果がなかった(図下段).これは,細胞膜直下のCa2+ の取り扱いが両モデルで異なるためであると考えられた.

利益相反の有無:無し