日本生理学雑誌 第77巻3号

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表紙の説明

第91 回日本生理学会大会

演題番号:1P-026

演題名:S4 およびS5 セグメントのフェニルアラニン残基がつくる電位センサードメイン に対する物理的な障壁がKCNQ1/KCNE1 チャネルのゲーティングを遅くする

A pair of phenylalanine residues on the S4 and S5 segments create a physical and energy barrier for the voltage sensor before opening in KCNQ1/KCNE1 channel

演者:中條浩一,久保義弘

所属:生理研・神経機能素子,総研大・生理科学

電位依存性カリウムチャネルであるKCNQ1 は,一回膜貫通型の修飾サブユニットKCNE1 と複合体を構成し,心臓でIKs と呼ばれる電流を担っている.KCNE1 はKCNQ1の膜電位依存性を脱分極側に約40mV シフトさせることで,KCNQ1 を非常に開きにくいチャネルに変化させているが,その分子メカニズムの詳細は不明である.今回我々は,S4とS5 の両セグメントにそれぞれ存在するフェニルアラニン残基,Phe232 とPhe279 が,このKCNE1 による電位依存性のシフトに重要な役割を果たしていることを明らかにした.両フェニルアラニン残基の物理的な干渉が,KCNE1 存在時にKCNQ1 が開きにくくなることの分子メカニズムであると結論した.

(図A)KCNE1 存在下では,Phe232,Phe279 それぞれの変異体において,アミノ酸側鎖の大きさに依存して電位依存性(G-V カーブ)がシフトする.

(図B)フェニルアラニンを側鎖の小さいアラニンに置き換えた変異体F232A とF279A では,野生型(Q1+E1)で見られるような電位センサーの動き(赤いトレース)と電流(黒いトレース)の間のディレイがほとんど見られない.

(図C)KCNE1 の存在下においては,電位センサー(S4)が脱分極によって細胞外側に動く際,S4 上のPhe232 とS5 上のPhe279 が物理的な障壁となり,電位センサーがUp stateに入りにくくなっていると考えられる.

利益相反の有無:本研究において,利益相反に関わる事項はありません.

関連論文

Steric hindrance between S4 and S5 of the KCNQ1/KCNE1 channel hampers pore opening.

Koichi Nakajo and Yoshihiro Kubo.

Nature Communications 5:4100(2014)doi:10.1038/ncomms5100