087.小脳によるリズム情報処理のメカニズムを解明

私たちはリズム良く音楽を奏でたり、楽曲のリズムの乱れに瞬時に気づいたりすることができます。近年,運動制御に重要な役割を果たしている小脳や大脳基底核が,運動を伴わないリズム感覚や時間の長さの判断などにも関与することが示唆されています(図B)。今回、私たちは小脳歯状核のニューロンが等間隔リズムの刺激間隔をコードしており、この情報が次の一拍のタイミング予測に用いられていることを明らかにしました。 実験では視聴覚刺激を一定間隔で繰り返し提示し,それが急に欠落したときに眼を動かすようにサルを訓練しました(図A)。課題遂行中の小脳核の単一ニューロン活動を調べたところ,刺激が繰り返されるに従って神経応答が増大し,その大きさは刺激の提示間隔に比例していることが明らかになりました(図C)。これは,感覚系でよく知られている感覚順応(sensory adaptation)とは逆の極めて珍しい新規な現象です。また,記録部位にGABA作動薬を微量投与して神経活動を抑制すると刺激欠落の検出が遅れました。これらのことは小脳核ニューロンが刺激間隔に従って応答性を変化させて、その情報が次の刺激のタイミングの予測に用いられていることを示しています。本研究ではリズム知覚の神経機構の一端を細胞レベルで初めて解明しました。その成果は小脳疾患の病態理解に役立つとともに,将来的には小脳疾患の診断法や治療の評価法の開発につながるものと期待されます。 Ohmae S, Uematsu A, Tanaka M. “Temporally specific sensory signals for the detection of stimulus omission in the primate deep cerebellar nuclei.” J Neurosci 2013; Sep 25 pict20131106191433 (A)欠落オドボール課題。サルがモニター上の固視点(赤点)を見ると,その周りに視覚刺激(白四角)が一定間隔で繰り返し現れる。同時に音も繰り返し提示される。視聴覚刺激が欠落したことを眼球運動で答えると,報酬として数滴のジュースが与えられる。(B)時間情報処理に関与する神経回路。(C)小脳核ニューロンの活動の例。左側のパネルは一発目の刺激が出た時点、右側のパネルは刺激が欠落した時点でデータを揃えている。縦の破線は繰り返し刺激のタイミングを示している。刺激回数が増えるほど、また、刺激間隔が長くなるほど、神経活動の応答が増大した。