心臓の収縮や心肥大・心不全の発症を調節するものとして、細胞内カルシウム(Ca2+)の増減が重要なカギとなっています。幼少期の心臓は、「筋小胞体」と呼ばれる細胞内Ca2+貯蔵装置が大人と較べはるかに未発達であることから、どのようにCa2+による収縮調節を行っているのか不明でした。今回、幼少期の心臓に高発現するCa2+結合タンパク質NCS-1(Neuronal Ca2+ sensor-1)に注目し、その遺伝子欠損(KO)マウスを解析した結果、NCS-1がその役割を担う重要因子であることを見出しました。すなわちKOマウスでは、特に子どもの心臓の収縮力が60%まで低下しており、新生児の約3割が死亡しました。一方、大人マウスの心臓においては、NCS-1は心肥大のような病態時に発現が高くなり、実際、ホルモン刺激による心肥大がKOマウスで生じにくいという結果を得ました。詳しい解析から、NCS-1は、細胞内にCa2+を放出するIP3受容体と協同してCa2+シグナルを増強させることにより、幼少期の心筋収縮および心肥大の形成に寄与することを明らかにしました。これらの知見は、小児科領域における心臓生理の理解のみならず、心肥大発症機構の解明、また心不全の治療などにも役立つことが期待されます。(Nakamura T.Y., Jeromin A., Mikoshiba K, Wakabayashi S. Circ. Res., 109; 512-523, 2011)
図の説明
NCS-1による幼少期の心筋収縮および心肥大の調節。
NCS-1は、筋小胞体Ca2+放出チャネルであるIP3受容体を活性化して局所のCa2+濃度を上昇させる。これはCaMKII活性化の引き金となり、筋小胞体内のCa2+レベルを上げ、筋収縮を増強させる。幼少期の心臓にはNCS-1、IP3受容体、CaMKKIIの全てが高発現しているため、筋収縮におけるこの経路の関与が成体に較べ大きい。一方、ホルモン刺激による心肥大がNCS-1欠損マウスでは起こりにくかったことより、心肥大形成にもNCS-1を介した経路が関与していることが示唆された。