大脳皮質の層構造は、脳における最も普遍的な構造の一つである。しかし、記憶などの高次認知機能における大脳皮質の層構造の役割はいまだ明らかでない。今回筆者らは、記憶の想起時に大脳側頭葉における皮質層間での信号の流れの向きが柔軟に切り替えられていることを発見した。この結果は米国科学雑誌サイエンス誌 (Science 331: 1443-1447, 2011) に掲載された。 筆者らは、記憶課題遂行中のサルの側頭葉の全ての皮質層から同時に神経活動を記録する実験を行った。そしてサルが図形を見ている期間(刺激呈示期間)と、図形を想起する期間(記憶想起期間)での皮質層間の情報の流れの方向を同定した。その結果、刺激呈示期間にはⅣ層 → Ⅱ/Ⅲ層→ Ⅴ/Ⅵ 層と信号が流れるのに対し、記憶想起期間では逆に、Ⅴ/Ⅵ 層 → Ⅱ/Ⅲ層へと流れていることが明らかとなった。記憶の読み出しにおいては、大脳皮質の層間ネットワークを用いた情報処理が重要な役割を果たしていると考えられる。