063.神経細胞内Ca2+誘起性Ca2+放出の精緻な調節機構の発見

同じ神経に電気信号が高頻度に発生すると、次第にその神経には信号が発生しにくくなる場合があることが知られており、その機序として信号発生時の神経細胞内Ca2+濃度上昇が不可欠であることが分かっています。最近私たちは、細胞内小胞体からのCa2+誘起性Ca2+放出(CICR)がその上昇を調節する要因であることを明らかにしました(J. Physiol., 586: 3365-3384, 2008)。CICRを担うライアノジン受容体という蛋白質分子と、そこから出てきたCa2+を直ぐそばで感知してCICRを止める抑制分子が細胞内に多数密集して存在することにより、神経細胞上に電気信号が発生すると直ちにCICRが起こり、その後例え信号が継続していても、CICRは約100分の2秒以内にほぼ停止(不活性化)して過剰なCa2+濃度上昇を防いでいることが分かりました。また、不活性化後に信号が継続する時間が長いほど、信号終了後も微弱なCICRが続いて細胞内にCa2+が残り続ける時間が長くなり、それが次の電気信号を一層発生しにくくする原因となることも判明しました。
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図の補足説明

神経細胞に電気信号が発生(細胞膜が脱分極)すると、細胞膜上のCa2+チャネルが開いて細胞外のCa2+が細胞内に入りこみ、それがチャネルから10ナノメートル以内(1ナノメートルは100万分の1ミリ)の所にあるライアノジン受容体を開口させることによりCICRが起こります。小胞体から出てきたCa2+は受容体から約60ナノメートルの所にある抑制分子に感知され、CICRが不活性化します。