心臓の一回拍出量を決定する重要な内因性機構にFrank-Starling機構があります。この機構は、摘出心筋レベルで張力が筋長とともに増大するという“筋長効果”に置き換えて考えることができます。その分子メカニズムの詳細は未だ明らかにされていません。心不全患者より摘出した心筋では筋長効果が減弱しているほか、Ca2+に対する感受性が変化していることが報告されており、心筋症を来す原因として、収縮制御タンパク質トロポニンの遺伝子変異が指摘されています。我々は、このトロポニンに注目し、細胞膜を除去したブタ心筋線維を用いて、内因性のトロポニンを外因性のウサギ骨格筋由来トロポニンに入れ替えることによって収縮系の再構築を行いました。その結果、トロポニン入れ替えにより心筋の筋長効果が減弱し、骨格筋と同程度になることが分かりました。したがって、トロポニンがFrank-Starling機構の調節に関与していることが明らかになりました。(J. Gen. Physiol. 131: 275-283, 2008)
図の説明
心筋コントロール(黒線)に比べ、骨格筋トロポニン入れ替え群(赤線)ではCa 2+ 感受性が上昇(曲線が左側にシフト)しており、筋長効果の程度も減弱しています。右の棒グラフで示すとおり、骨格筋トロポニン入れ替え群(赤)では骨格筋コントロール(青)と同程度の筋長効果となりました。