044. mRNAの樹状突起への局在を制御する分子

神経細胞のような極性を持つ細胞においては、タンパク合成が主に行われる細胞体と情報伝達など機能的に作用するシナプス部位との間に大きな空間的隔たりが ある場合が多い。記憶・学習は活動の盛んな一部のシナプスが機能的・形態的に特異的な変化が起きることにより成立すると考えられる一方で、どのようにして 一つの細胞内でこのような局所での変化が制御されているかは多くがまだ謎である。最近、神経活動に応じて迅速且つ特定のシナプス領域のみで必要なタンパク 質を正確に供給するメカニズムの一つとして、あらかじめ遺伝情報物質であるmRNAやリボゾームのような翻訳分子を樹状突起に運んで働かせる『局所翻訳』 と呼ばれる機構の存在が明らかになってきた。今回我々はこのmRNAの局在に必要と考えられるタンパク質を見つけた。Hzfと呼ばれ、運動学習に必須であ る小脳シナプス可塑性に重要な細胞内カルシウムチャネルの一つであるイノシトール3リン酸受容体 (IP3R1) のmRNAの樹状突起への局在に関与していることがわかった (Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 102, 17190-17195, 2005) 。これらの機構と運動学習など高次的な神経活動との関連性へのさらなる解明が今後期待される。

pict20060511132753

図の説明

Hzfは細胞体でIP3R1 mRNAと結合し、RNA顆粒と呼ばれる巨大なRNA輸送体に乗って微小管に沿って樹状突起へと運ばれる(左図)。樹状突起へ局在したmRNAは近傍のシナプス活動によって局所的に翻訳されると予想される(右図)。