016.網膜での周辺受容野はシナプス間隙のpH変化により形成される

視覚系をになう神経細胞は、その受容野中心部に光刺激を受けたときと、周辺部に光刺激を受けたときとで極性の異なる電位応答を示す。このような光受容野周辺部からの側抑制は、我々が物体の輪郭を認知する上で重要なメカニズムである。視覚情報処理の第一段階をになう網膜で既に側抑制は形成されている。網膜における周辺抑制の形成には介在ニューロンである水平細胞が関与しているが、それがどのように作動して受容野周辺部が形成されるかについてはさまざまな議論があった。我々はイモリ網膜スライス標本を用い、錐体視細胞での周辺光応答の電流解析を行った。その結果、1) 周辺光を照射すると視細胞の電位依存性カルシウム電流が増大する。2) 視細胞カルシウム電流は細胞外のpHをアルカリ化すると増大する。3) 標本の灌流液のpH緩衝性を高めると視細胞カルシウム電流が増大し、この電流増大に打ち消される形で周辺光応答が消失する。ということを見出した。以上のことから、受容野中心部が照射され錐体視細胞が過分極すると伝達物質であるグルタミン酸の放出量が減少し、一方、受容野周辺部が照射されると水平細胞は過分極し、その結果、視細胞?水平細胞シナプス間隙のpHがアルカリ化し、錐体視細胞のカルシウム電流が増大するからグルタミン酸の放出量も増大する。このようにして周辺受容野が形成されると考えられる (Journal of General Physiology 122; 657-671, 2003)。この周辺受容野形成のメカニズムは、世界中の網膜研究者が30年以上取り組んできた根本的な課題であり、本研究は同号のCommentaryで紹介された。
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