020.シナプス前の活動電位なしに生じるシナプス後の活動電位: シナプス前カルシウムチャネルとしてのP2X受容体によるシナプス伝達の誘発

細胞内化学反応のエネルギー供与体であるATPは、特定の条件下に細胞外に遊離され、さまざまな細胞応答を誘発する。90年代前半以降、細胞外ATP濃度の上昇を細胞反応に変換する分子として、受容体チャネルであるP2X受容体と代謝型受容体であるP2Y受容体が同定された。特に、P2X受容体チャネルは、脳における豊富な発現、および、静止状態において示す高いカルシウム透過性から、神経細胞の興奮性制御において重要な役割を担っていると予想されてきたが、脳内におけるその機能はほとんど理解されていないままであった。
内臓感覚情報の受容・統合中継核である孤束核尾側部は、P2X受容体チャネルを高密度に発現し、その活性化は著明な自律応答を誘発する。その分子細胞機構を明らかにするために、脳スライス孤束核ニューロンから微小興奮性シナプス後電流を記録し、活動電位あるいは電位依存性カルシウムチャネルに依存しないグルタミン酸放出を解析した。その結果、P2X受容体はシナプス前終末における効率的なCa2+流入源として働き、複数のグルタミン酸含有シナプス小胞の同期的な放出を高頻度に誘発することによってシナプス後ニューロンに活動電位を発生させることを証明した。この事実から、脳内のP2X受容体の重要な機能は、ATP活性化型シナプス前カルシウムチャネルとして、細胞外ATP濃度の上昇に応答して直接的に「シナプス伝達」を誘発することにある、という可能性を提唱した(Journal of Neuroscience 24: 3125-3135, 2004)。
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