小脳プルキンエ細胞は、成熟動物においてはほとんどの細胞が一本の登上線維によってのみ支配を受けるが、発達初期には一時的に複数の登上線維による多重支配を受けている。生後、徐々に登上線維の本数が減少し、生後3週目までに1本支配に移行する。私たちは電気生理学的手法を用いて、登上線維の生後発達過程を詳細に解析した。その結果、生直後のプルキンエ細胞は、各々のシナプス強度が比較的同等な登上線維により多重支配されているが、生後一週目には、非常に強力な興奮性シナプス後電流を発生する一本の登上線維と、それ以外の弱い登上線維に支配されるようになることがわかった。入力線維間の強弱の形成はシナプス前終末からの伝達物質放出様式の変化を伴っていた。すなわち、強力な登上線維は成熟型の登上線維と同じ明らかなMultivesicular releaseを示すのに対し、弱い登上線維ではMultivesicular releaseの程度が低かった。さらに私たちは、弱い登上線維が選択的に除去されることを示唆する実験結果を得た。今回の結果は、過剰シナプス除去に先立って入力線維間の機能的な強弱の差が形成されることが、小脳神経回路網の成熟過程に重要な働きをしていることを示している。(Neuron 38, 785-796, 2003)
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