筋収縮のメカニズムは古くからの研究によってほぼ全容が解明されており、多くの生理学の教科書にも記載されている基礎的な事項です。筋の収縮は運動神経の興奮よって始まり、筋膜上で終板電位が発生し、それが活動電位を惹起して筋が収縮します(図1A)。終板電位は一般的に小さい上、伝導する間に電位が減衰するためそれを増幅する役割を担う活動電位は筋収縮に必須であるとされています。しかしながら今回、筋で活動電位の形成に必須である電位依存性ナトリウムチャネル(NaV1.4)をノックアウトしたゼブラフィッシュを作成したところ、活動電位を欠失しているにも関わらず筋は問題なく収縮し、遊泳能力は野生型のゼブラフィッシュとほぼ変わらないことが分かりました。なぜ活動電位を持たない筋が収縮できるのかを調べるために数理シミュレーションを行ったところ、ゼブラフィッシュの筋は哺乳類などに比べてサイズが小さいため電位の減衰はほとんど問題にならないこと、さらに終板電位の大きさは筋の収縮に必要な電位を上回ることが分かりました。つまり終板電位が直接筋収縮を惹起していると考えられます(図1B)。この結果は筋の収縮メカニズムは多様性がある可能性を示唆しており、今後、さまざまな生物種で固有の筋収縮のメカニズムが明らかになれば進化の過程で生物はどのように筋収縮のメカニズムを獲得し、それをどのように変化させてきたのか明らかになることが期待されます。また一般に不要な遺伝子は進化の過程で失われますが、NaV1.4はゼブラフィッシュでは筋収縮に必須ではないにもかかわらず失われていません。筋収縮以外の重要な機能を担っている可能性も考えられますが今のところ詳細は不明です。今後の研究の発展によりNaV1.4の新たな機能が明らかになるかもしれません。
Normal locomotion in zebrafish lacking the sodium channel NaV1.4 suggests that the need for muscle action potentials is not universal. 全著者名 Akiyama C, Sakata S, Ono F. 雑誌名PLoS Biology 23(4): e3003137. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003137
<図の説明>
図1、筋収縮のメカニズム。(A)これまで知られてきた筋収縮のメカニズム。運動神経の興奮により終板電位が生じ、終板電位が活動電位を引き起こし筋が収縮する。(B)本研究により明らかになった筋収縮のメカニズム。ゼブラフィッシュの筋では活動電位がなくても、終板電位が直接筋収縮を惹起できる。