169.筋肉のバネ振動の波動特性─凹みの挙動が波動の性質を教えてくれる─

横紋筋(心筋・骨格筋)には、収縮と弛緩の中間の溶液条件下で、収縮の最小機能単位であるサルコメアを収縮・弛緩を繰り返す振動状態(サルコメリックオシレーション(SO)状態)にする性質があります。今回、サルコメアの収縮・弛緩であるSOと、そのサルコメアを仕切るZ線の周期的変位を(サルコシンクドオシレーション(SSO)と命名)の双方において、瞬時振幅・位相を定義して、崩れた波形も一環として捉える波動解析手法を開発しました。そして、この解析を一定の変動しないカルシウム濃度条件で生じる骨格筋のSOに適用させたました。その結果、サルコメア集団が生み出す伝播波が一方向に進む場合や衝突する場合のSOとSSOの相互作用が明確に可視化されました(図)。SSOにおける急激な瞬時位相のジャンプを伴う瞬時振幅の凹み「hole」がSOを特徴づける指標として観察されることが判明しました(図)。この波動特性は、個々のサルコメア長の計測が出来なくても、横紋筋そのものがどのように波打ったのかを計測すれば捉えられるので、人体の内部の心臓や骨格筋の筋収縮系の力学特性が正常か異常かなどを評価するための基盤となると期待されます。

Hole behavior captured by analysis of instantaneous amplitude and phase of sarcosynced oscillations reveals wave characteristics of sarcomeric oscillations., Seine A. Shintani, Biochemical and Biophysical Research Communications: 691, 149339, 2023.

 

<図の説明>

サルコメリックオシレーションとサルコメアを仕切るZ線の振動(サルコシンクドオシレーション)の間の相互作用とその波動特性

A. サルコメリックオシレーション状態の骨格筋筋原線維の隣接する連続31本のZ線の振動(サルコシンクドオシレーション)の時系列データ
B. そのZ線間の距離として定義される連続30節のサルコメア長変化の振動(サルコメリックオシレーション)の時系列データ
C. サルコシンクドオシレーションの瞬時振幅の時空間分布
D. サルコメリックオシレーションの瞬時振幅の時空間分布
E. サルコシンクドオシレーションの瞬時位相の時空間分布
F. サルコメリックオシレーションの瞬時位相の時空間分布
G. 図中4秒の時点のサルコシンクドオシレーションの瞬時振幅・位相の変化。距離25μmの部位に生じている、瞬時位相の急激なジャンプを伴う瞬時振幅の凹みがSD hole
H. 図中4秒の時点のサルコメリックオシレーションの瞬時振幅・位相の変化