てんかん発作では、シナプス後細胞内のCl-濃度の上昇がCl-平衡電位を脱分極させ、GABA作用の抑制から興奮への逆転により、神経活動の過剰興奮状態を起こしていることが原因の1つと考えられてきました。
本研究では、三者間シナプスにおいてアストロサイトがシナプス間隙から漏れ出したGABAに応答し、GABAA受容体を介してシナプス間隙にCl-を補填することでシナプス間隙の細胞外Cl-を緩衝し、細胞内外のCl-濃度差を維持することで抑制性シナプス伝達の破綻を防いでいる可能性を調べました。実験では、アストロサイト選択的にNKCC1を欠損する遺伝子改変マウスを使用することで、アストロサイトが抑制性シナプス伝達の恒常性やてんかん発作の抑制に果たす役割を検討しました。
この遺伝子改変マウスでは、ピロカルピン誘発性てんかん発作において発作潜時も短く、さらにてんかん発作も重症化することがわかりました。つまりアストロサイトのNKCC1は、抗てんかん作用をしていることがわかりました。また、このときNKCC1選択的阻害薬であるブメタニドの投与により、てんかん発作の憎悪が抑えられました。これは、神経細胞のNKCC1を阻害した結果と考えられます。つまり、てんかん発作に関してアストロサイトのNKCC1は保護的に、神経細胞のNKCC1は増長的に働くことがわかりました(図1)。
今回の研究結果から神経細胞に発現するNKCC1を選択的に機能阻害するような治療薬が開発されれば、てんかんや自閉症の新たな治療薬になると期待されます。
Astrocytic NKCC1 inhibits seizures by buffering Cl− and antagonizing neuronal NKCC1 at GABAergic synapses.
Trong Dao Nguyen, Masaru Ishibashi, Adya Saran Sinha, Miho Watanabe, Daisuke Kato, Hiroshi Horiuchi, Hiroaki Wake, Atsuo Fukuda.
Epilepsia, 2023. (http://doi.org/10.1111/epi.17784)
<図の説明>
アストロサイトによるシナプス間隙Cl-濃度緩衝作用の模式図。(A)アストロサイト選択的NKCC1欠損マウスでは、過剰なシナプス伝達が生じたときにアストロサイトからシナプス間隙へのCl-緩衝作用が無いためシナプス間隙のCl-濃度低下が生じやすくなる(A右図)。(B)ブメタニドの作用を示した模式図。野生型マウスでは、シナプス後神経細胞のNKCC1に対する発作の軽減作用に加え、アストロサイトのNKCC1に対する発作の憎悪作用があるため、発作の軽減作用が得られにくくなっている(B左図)。 アストロサイト選択的NKCC1欠損マウスでは、シナプス後神経細胞のNKCC1のみにブメタニドが作用するため、てんかん発作の軽減作用が得られる(B右図)。