147. 局所的なミクログリア活性は遠隔性に脳神経回路の改編を制御する

末梢神経の損傷に伴う難治性の神経障害性疼痛の発現には中枢神経回路の可塑的な改編が関与すると考えられています。しかし、直接損傷されない中枢神経回路に可塑性が誘導される仕組みはよくわかっていませんでした。今回我々はマウスのヒゲ体性感覚経路の脳幹―視床投射回路をモデルに、脳の免疫応答を担うグリア細胞であるミクログリアが、視床回路改編の誘導を制御することを発見しました。末梢神経切断後、損傷を受けた神経が入力する脳幹領域特異的にミクログリアの凝集が生じます。一方、視床ではこの現象は起こりません。ミクログリアが直接視床回路の改編に関与するかを調べるため、私たちは脳全体あるいは脳幹または視床局所的にミクログリアを除去しました。その結果、脳全体から、あるいは視床ではなく脳幹局所的にミクログリアを除去することで、視床回路改編の誘導を阻止できました。また、ミクログリアを除去すると末梢神経切断マウスに見られる異所性疼痛の発現も阻止できます。よって、末梢神経損傷に伴う脳幹局所的なミクログリアの凝集は、脳幹から視床への軸索投射を変えることで損傷部位から離れた視床回路の改編を誘導し、異所性疼痛の発現を引き起こすと考えられます。

Brainstem local microglia induce whisker map plasticity in the thalamus after peripheral nerve injury. Ueta Y, Miyata M. Cell Reports 34(10): 108823, 2021.

 

 

切断を受けた末梢ヒゲ感覚神経(三叉神経)が入力する脳幹三叉神経主知覚核のヒゲ領域でミクログリアの凝集が生じ、脳幹ニューロンの興奮性が上昇する。その結果、脳幹ヒゲ領域から視床後内側腹側核のヒゲ領域へ投射する興奮性軸索による視床ニューロンの多重軸索支配化及びヒゲ以外の体部位情報を運ぶ異所性入力の侵入が生じる。末梢神経の切断はマウス下顎への機械刺激に対する異所性疼痛(通常は嫌がらない程度の弱い刺激でも逃避行動を示す感覚過敏応答)を引き起こす。神経損傷に伴う視床回路改編及び疼痛行動はミクログリアを除去することで阻止できる。