心筋はその内部の筋節の中のミオシンが首振り運動をすることで収縮と弛緩を繰り返します。我々は、ラットの心筋細胞を用いたインビトロ試験で、この収縮と弛緩を繰り返す筋節を体温と同じくらいの温度に温めると、さらに細かい収縮と弛緩の振動を伴って動くことを発見し、これを熱による振動という意味で熱筋節振動(HSOs; Hyperthermal Sarcomeric Oscillations)と名付けました。さらに、その細かい振動はカルシウム濃度変化に関わらず、同じ周期で振動する、即ちリズム恒常性(CRH; Contraction Rhythm Homeostasis)があることも発見しました。また、その特性を再現する数理モデルを構築しました。
心臓の収縮はカルシウム濃度変化によって制御されています。しかし、心筋細胞内の収縮末期におけるカルシウム濃度の減少は遅いにもかかわらず、心臓は、速やかに弛緩・拡張し、新たな血液の充填を行うという一見矛盾した現象がなぜ起こるのかこれまで理解できていませんでした。心臓の拡張期において、熱筋節振動でみられた速い伸展が起こっているものと考えれば、この矛盾は解消します。さらに拡張期には、逆反応が起こることによってATP消費が減少し、エネルギー消費の観点からも心拍が効率的であることが予想されます。
Mechanism of Contraction Rhythm Homeostasis for Hyperthermal Sarcomeric Oscillations of Neonatal Cardiomyocytes. Seine A. Shintani, Takumi Washio, Hideo Higuchi. Scientific Reports: 77443 (2020).
図 心筋細胞を温めると現れる筋節収縮リズムの恒常性(CRH)。筋節は心筋細胞の収縮単位であり、筋節を仕切るZ線を緑色蛍光タンパク質GFPで可視化しZ線間の距離を測定した(左上図) 。41°Cに温めると筋節振動が誘起され(右上図)、振動の周波数は7.6と1.4Hzが主なものであった(中央右図) 。7.6Hzの振動の振幅や収縮・伸展時間は大きく変化するが、収縮と伸展時間を加えた周期は一定に保たれることが明らかとなった(右上図)。この振動を再現した数理モデルにおけるミオシンの状態遷移関係(左下図)。