われわれが普段手を動かしたり物を見たりするなどのあらゆる行動には神経を介した電気信号による情報伝達が欠かせない。これらを司るのは電気信号を感じてはたらく“電位依存性イオンチャネル”と呼ばれるタンパク質群です。本研究グループでは、そのファミリーの中で唯一電気信号を受け取ると自身の酵素機能を制御するタンパク質“電位依存性ホスファターゼVSP”を2005年に発見・研究してきました。VSPは、細胞膜に埋め込まれた“電位センサードメイン”と細胞内に存在する“酵素ドメイン”が連結したタンパク質ですが、その酵素活性調節のメカニズムは発見当初から謎のままでした。今回われわれは、コンピュータ解析と実験的手法を組み合わせることで、酵素ドメインにある酵素活性調節のキーとなる部位を新たに見出しました。実験的に、この部位の性質(疎水性) を変えたVSPを用いて酵素活性を計測したところ、疎水性と酵素活性の間に相関があることが判明しました。では、なぜこのような相関があるのだろうか?われわれはVSPの活性化に伴う構造変化を調べることで検討しました。その結果、VSPには酵素活性の異なる活性化状態が2つ存在し、今回注目した部位は両者の比率に影響を与えることで、見かけの酵素活性を制御していることがわかりました。これらの結果は、電気信号を受け取り、機能を制御する一連のメカニズムの一端を解明したものになります。
The hydrophobic nature of a novel membrane interface regulates the enzyme activity of a voltage-sensing phosphatase.
Kawanabe A, Hashimoto M, Nishizawa M, Nishizawa K, Narita H, Yonezawa T, Jinno Y, Sakata S, Nakagawa A, Okamura Y, eLife, 7:e41653, 2018.
電位依存性ホスファターゼの活性化機構。電気信号を感じると“電位センサードメイン(青色)”が動き、それに伴って酵素ドメイン(水色、黄緑色)が蝶番のように動くことで、活性化していると考えている。イノシトールリン脂質[PI(4,5)P2]は細胞膜の構成成分の1つであり、VSPの基質である。赤丸枠で囲っている部分が本研究で明らかにした酵素活性調節のキーとなる部位。Kawanabe et al. (2018) eLife, 図11より改変。