093.ATP受容体チャネルP2X2三量体の活性化時の活性化シグナルの分子内の流れ

我々は、これまでに、ATP 受容体チャネルP2X2が、細胞外ATPの結合と膜電位の変化を複合的に感知し活性化する受容体チャネルであることを明らかにしてきた。その活性化の機構、特に、二つの情報が分子内をどのように流れ、どのように集約されるのかは、未解決である。また、P2X2は3量体であるが、2分子のATPの結合によって活性化されることが知られている。そのため、2分子のATPの結合による活性化シグナルが3量体中をどのように流れるかは興味ある課題である。
この問題にアプローチするためには、3量体中に、数と位置を規定して変異を導入することが必要である。そこで、Uracil Specific Excision Reagentを用いるUSER法により、ATP結合部位のK308A変異、リンカー領域のD315A変異、膜貫通部位のT339S変異を、数をコントロールして導入したtandem trimeric construct (TTC) を高効率に作成し、電気生理学的解析を行った。(1) ATP結合能を失う変異K308Aを、1, 2, 3 個導入したTCCを用いた実験により、ATPによる活性化にも膜電位依存的活性化にも、2個のATP 結合部位が必要かつ充分であることが明らかになった。(2) ATP 結合部位とチャネルポアの存在する膜貫通部位をつなぐリンカー領域に位置するD315にD315A変異を導入すると、[ATP]- 応答関係に膜電位依存性の異なる2コンポーネントが出現することを見出した。このD315A変異を、1, 2, 3 個導入したTCCを用いた実験においても、K308Aの場合と同様、1個の変異では際だった変化がみられず、2個の変異により著しい変化が見られた。(3) 膜貫通部位のポア最狭部に位置するT339にT339S変異を導入すると、膜電位依存性を失ってどの電位でも活性化するようになる。このT339Sを、1, 2, 3個導入したTCCを用いた実験においては、K308A, D315Aの場合と異なり、膜電位依存的活性化が、導入した変異の数により段階的に変化することが明らかになった。これらの結果は、ATP結合部位、リンカー部位では、2個の正常なサブユニットの存在が必要十分であるのに対し、膜貫通部位では、3個のサブユニットが同等にかつ段階的に寄与することを示す。
ATP結合による活性化シグナルの分子内の流れにさらにアプローチするために、同一サブユニット(cis)、もしくは隣接サブユニット(trans) の2つのレベルに、それぞれの変異を1つずつ導入したTCCコンストラクトを作成し、性質の比較解析を行った。その結果、(4) K308AとD315Aの場合は、cis位置に導入したものと trans 位置に導入したもので機能が異なること、cis 位置に導入したものの性質は野生型に類似していること、また、 (5) K308AとT339Sの場合、および、D315AとT339Sの場合は、cis位置に導入したものと trans位置に導入したもので機能が類似していることを見いだした。
以上の結果から、3量体に対する2分子のATPの結合情報が、リンカー部位まではATPが結合した2個のサブユニット上をそのまま流れ、膜貫通部位において3つのサブユニットに均等に拡散することが示された。

Batu Keceli and Yoshihiro Kubo, Signal transmission within the P2X2 trimeric receptor.
Journal of General Physiology, (2014) 143: 761-782
pict20140609113034図:3量体ATP受容体P2X2の分子内のシグナルの伝達

3つのサブユニットを連結したコンカテマーに、変異の位置と数をコントロールして導入することにより、2分子のATPの結合による活性化シグナルの流れを解析した。 ATPの結合のシグナル(K308) は、結合した2つのサブユニット上を、結合部位とチャネルポアをつなぐリンカー部位 (D315) まで流れる。その後、拡散し、チャネルポア部位 (T339) では、3つのサブユニットに均等に伝達される。