日本生理学雑誌 第75巻 3号

CONTENTS

表紙の説明

第89 回日本生理学大会(松本)
演題番号:2PJ-81
演題名:除アクチン筋線維内でのATP 結合によるミオシン頭部とその周囲の水構造変化
Structural change of myosin heads and water in the thin-filament-extracted skinned fibers upon ATP binding
演者:山口眞紀1,竹森 重1,木村雅子1,大野哲生1,中原直哉1,八木直人2
所属:1東京慈恵会医科大学・医・生理,2高輝度光科学研究センター

筋節周期構造内の組織された水環境において,骨格筋収縮反応の主役であるミオシン頭部(M)はATP 加水分解の自由エネルギーをいったんM・ADP・Pi の形で堰き止めた後,アクチン(A)と相互作用して収縮反応に利用すると考えられている.ところがミオシン頭部がATP 加水分解の自由エネルギーを堰き止める詳細を調べようとすると,アクチンとの相互作用がミオシン固有の変化をマスクしてしまう.そこでアクチンフィラメントをゲルゾリン処理で除いた除アクチン筋線維のX 線回折像を大型放射光施設(SPring8 BL45 XU および高エネルギー加速器研究機構BL15A)にて取得したところ(図上左),ATP のミオシン頭部への結合・加水分解によりミオシン層線のピークがシフトし(図上右で緑線から青線へ),ミオシン頭部の重心がミオシンフィラメント軸に近づく変化を起こすことがわかった.このとき核磁気共鳴法で水プロトン横緩和経過(図下右)を調べると,ミオシン頭部の周りの強い束縛水が解放されることが示唆された.ATP 加水分解の自由エネルギーはいったん頭部の大きな配置変化と水構造変化の中に堰き止められた後に収縮反応に利用されるものと考えられた.