日本生理学雑誌 第73巻 6号

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表紙の説明

The 36th International Congress of Physiological Science(IUPS2009)and The 86th Annual Meeting of Physiological Society of Japan
演題番号:P3PM-7-1
演題名:“A NEURAL CORRELATE OF SPATIAL MEMORY IN MONKEYS WITH UNILATERAL V1 LESION”
著者名:Kana Takaura, Masatoshi Yoshida and Tadashi Isa
(高浦加奈,吉田正俊,伊佐正)
「盲視」のモデル動物である片側大脳皮質一次視覚野(V1)を除去したサルの記憶誘導性サッケード課題遂行中に,損傷同側の上丘から記録された神経細胞の活動.
一般にV1 の損傷は対応する視野内での視覚的意識の消失を引き起こすことが知られているが,一部の患者では「視覚的意識とは乖離した残存する視覚情報処理能力」の存在が報告されている.これが「盲視」と呼ばれる現象であるが,この残存する視覚情報処理能力とその神経基盤を明らかにする試みが盛んに行われている.本研究ではサルをモデル動物として利用し,1)損傷視野内で空間作業記憶が利用可能であること,2)損傷視野内の空間記憶が損傷同側の上丘に保持されていること,の2 点を明らかにした.記憶誘導性サッケード課題では,サルは一瞬提示された手がかり刺激(Cue)の位置を遅延期間中記憶に留めておき, 固視点(FP)が消えた瞬間にその位置に向けてサッケードすることで報酬を得られる.
損傷同側の上丘の神経細胞はCue が受容野内に提示された試行でのみ遅延期間中に持続的な発火活動を示した.(上段が受容野内にCue が提示された試行,中段が受容野の外に提示された試行,下段は計測した神経細胞の活動の総和をとったもの)通常,このような持続活動は頭頂連合野や前頭連合野で記録され,上丘では記憶されないことから,この実験結果はV1 損傷後からの回復過程で上丘の機能が変化したことを示している.