日本生理学雑誌 第73巻 4号

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表紙の説明

第87 回日本生理学会大会(盛岡)
演題番号:1P-J-63
演題:「フルバスタチンによる骨格筋毒性にRab1 阻害と小胞体―ゴルジ輸送の異常が関与する」
“Rab1 GTPase is inhibited and endoplasmic reticulum-to-Golgi trafficking is disordered by fluvastatin in cultured rat skeletal myofibers”
演者:坂本多穂1,和栗聡2,木村純子1
所属:福島県立医科大学・医学部・1 薬理学講座,2 解剖組織学講座
高コレステロール血症治療薬のHMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)には,副作用として,筋力低下や横紋筋融解症などの筋毒性がある.我々は,ラット単離骨格筋線維で,スタチンによる筋空胞変性の原因が,メバロン酸の代謝物ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)の枯渇と,これを必須とする低分子量G 蛋白質Rab の不活性化だと報告した[1].最近,さらに我々はスタチンによる筋力低下に,ミトコンドリア膜電位(ΔΨm)低下によるATP減少も関与することを見いだした[2].そこで,今回,ミトコンドリア障害と小胞輸送との関連を検討した.

A.ミトコンドリア膜電位感受性色素JC-1 で標識された骨格筋線維

JC-1 はΔΨm の低下により蛍光波長が短くなる(赤から緑に変化).ラット短指屈筋から単離した骨格筋線維を1μM フルバスタチン(Flv)存在下で初代培養し,4 日後にJC-1 を負荷して蛍光を観察すると,コントロールの筋線維と比較して赤色蛍光が弱くなり,緑色蛍光が強くなった.これはフルバスタチンが筋線維のΔΨm を低下させることを意味する.

B.ミトコンドリア膜電位の変化

JC-1 測定により得られたΔΨm のまとめ.全筋線維中の赤色蛍光が優勢な細胞の割合を示す.スタチンによるミトコンドリア膜電位の低下は,GGPP により回復した.Rab ゲラニルゲラニル基転移酵素阻害薬ペリリルアルコール(POH)とER―ゴルジ輸送阻害薬ブレフェルジンA(BFA)は,Flv と同様に,ΔΨm を低下させた.この結果は,スタチンによるRab 不活性化と,それに伴う小胞輸送系の停滞がミトコンドリア障害の一因であることを示唆する.
Reproduced from ref[2]. Copyright 2010 The Japanese Pharmacological Society.

[1]Sakamoto K, Honda T, Yokoya S, Waguri S, Kimura J(2007). Rab-small GTPases are involved in fluvastatin and pravastatin-induced vacuolation in rat skeletal myofibers. FASEB J. 21 : 4087―4094.
[2]Tanaka S, Sakamoto K, Yamamoto M, Mizuno A, Ono T, Waguri S, Kimura J(2010). Mechanism of statin-induced contractile dysfunction in rat cultured skeletal myofibers. J Pharmacol Sci. 114 : 454―463.