日本生理学雑誌 第70巻 6号

CONTENTS

表紙の説明

第85 回日本生理学会大会(東京)
演題番号: 2P-G-108
演題: 「チンパンジー乳幼児期における前頭前野の発達過程」
演者: 酒井朋子1,三上章允1,西村剛1,豊田浩士2,三輪隆子1,松井三枝3,田中正之1,友永雅己1,松沢哲郎1,鈴木樹理1,加藤朗野1,松林清明1,後藤俊二1,宮部貴子1
所属: 1 京都大学霊長類研究所,2 生理学研究所,3 富山大学医学部
我々は,ヒトの脳の特異性の由来を解明するために,現存する生物のなかで進化的にヒトと最も近縁であるチンパンジーの脳の発達過程を縦断的に調べている.本研究では,ヒトで最も発達しており,注意,思考,判断,行動計画,社会性などの高次な精神機能をつかさどる前頭前野に着目した.磁気共鳴画像法(MRI)を用いて,京都大学霊長類研究所で2000 年に出生した3 個体のチンパンジーの3 次元脳解剖画像を生後6 ヶ月~6 歳まで縦断的に取得した. 画像解析では,前交連の前方を前頭部,脳梁膝の前方を前頭前野と区分し,灰白質および白質容積を各個体の年齢ごとに解析した. その結果,(1)生後6 ヶ月から1 歳(相対年齢:2 歳から3 歳)にかけて各脳領域の容積が急激に増加する,(2)この期間に灰白質容積は白質容積よりも顕著に増加する,(3)その後,灰白質容積は一定になるが,白質容積はゆっくりとした割合で増加し続ける,(4)前頭前野では他の領域と比較して発達に時間がかかり,6 歳(相対年齢:12 歳)の時点では前頭前野の白質容積はまだ成体レベルまでに達していないことが明らかとなった. これらの結果はヒトの脳の発達過程と類似しており,乳幼児期においてヒトとチンパンジーは共通した脳の発達パターンを持ち合わせていることが示唆される.
写真撮影者:平田明浩氏(毎日新聞社),野上悦子氏(京都大学霊長類研究所)