日本生理学会誌 第78巻6号

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表紙の説明

大会名:第93 回日本生理学会大会

演題番号:2P-031 演題名:圧力負荷による心不全進行過程のT 管リモデリングにおけるNCX1 の役割

演題名(英語):The role of NCX1 in T-tubule remodeling during progression of heart failure induced by pressure overload

演者:氏原嘉洋1,2,橋本 謙1,成瀬恵治2,毛利 聡1,2,片野坂友紀2

所属:1 川崎医科大学・生理学1,2 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・システム生理

説明(キャプション):  心筋細胞のT 管膜は,興奮収縮連関を支える特殊構造である.心不全心筋細胞では,T 管膜が崩壊して興奮収縮連関の効率が低下するが,そのメカニズムは不明である.我々は, 大動脈を結紮したマウスの心臓の心不全進行過程において,心筋細胞のT 管膜構造と興奮 収縮連関に伴うCa2+ ハンドリングの変化を解析した.この結果,T 管膜構造の崩壊に先行 して,Na+/Ca2+ 交換体(NCX1)活性が有意に低下することが明らかになった.薬物誘導 型のNCX1 高発現マウスを作製して,心不全進行過程において低下したNCX1 活性を回復 させたところ,T 管膜構造の崩壊を回避して,個々の心筋細胞の興奮収縮連関の効率が改 善された.これに加えて,圧力負荷による心不全進行を抑制することができた.以上の結 果は,T 管膜近傍のCa2+ 管理が心筋細胞の機能維持に重要である可能性を示唆している.

A:心臓の組織染色像.マウス大動脈を結紮(TAC 手術)した圧力負荷モデルは,16 週間 後に,心臓の肥大,拡張を伴う重篤な心不全を呈した.一方,NCX1 を高発現させると, 心不全の進行が抑制された.

B:心臓組織切片のNCX1 染色像.右下は拡大像.TAC 後16 週では,NCX1 の局在が乱 れる.NCX1 を高発現させてNCX1 活性を回復させた心臓では,NCX1 の局在が維持され た.Scale bar,20 μm,5 μm(右下).

C:圧力負荷による心不全進行過程のNCX1 活性の変化.TAC 手術を施すと,一時的に NCX1 活性が上昇するものの,8 週以降にNCX1 活性は著しく低下する.術後8 週から NCX1 を高発現させると,低下したNCX1 活性を回復することができる.

D:単離心筋細胞のDi-8-ANNEPS による膜染色像.右下は拡大像.TAC 後16 週の心筋細 胞では,T 管膜が崩壊している.NCX1 高発現モデルでは,T 管膜構造が維持されている. Scale bar,50 μm,5 μm(右下).

E:Di-8-ANNEPS シグナルの周波数解析の典型例.正常およびNCX1 高発現心筋細胞で は,およそ0.5 μm-1(2 μm)に顕著なピークが存在する.一方,NCX1 活性が低下した心 筋細胞では,ピークが小さく,繰り返し構造(T 管)が乱れていることが明らかである.

利益相反の有無:無し