日本生理学雑誌 第76巻 6号

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表紙の説明

第91 回日本生理学会大会(鹿児島)
演題番号:1P-029

 

演題:「カリウムイオンチャネルKcsA のゲート開閉と連動した膜中集合・離散挙動:原子間力顕微鏡による直接観察」
“Gating-Coupled Clustering―Dispersion Behavior of the KcsA Potassium Channel in Membrane: Direct Observation by Atomic Force Microscopy”

 

演者:角野 歩1,2,山本大輔3,岩本真幸2,出羽毅久4,老木成稔2
所属:1JST/PRESTO,2福井大医,3福岡大理,4名工大院工

 

pH 依存性K+チャネルのKcsA は,中性から酸性に変えるとゲートを開くことが明らかになっています.今回我々は,膜中でKcsA が開閉する様子を原子間力顕微鏡(AFM)で直接観察しました.中性pH での閉状態では細胞内側に数nm 突出した構造が見えました.
一方,チャネルが活性を示す酸性pH では細胞内側にある活性化ゲートが開き,その周りに4 量体サブユニットが取り囲む構造を捉えることに成功しました.さらにゲート開閉の構造変化のみならず,中性pH で閉じたKcsA チャネルは互いに集まり少数のチャネルからなる集団を形成しました.一方,酸性pH ではゲートを開いたチャネルがバラバラに散らばることを発見しました.さらに詳しく観察すると酸性においても一部のKcsA は集合し,ゲートが開ききっていないことを見つけました.これらの結果より,中性で集合して閉じたチャネルは酸性になっても集合した中間状態をとり,さらに一個一個のチャネルに散らばってはじめてゲートを開く,ということがわかりました.
今回発見したKcsA の“ゲート開閉と連動した膜二次元平面上での集合・離散”は,全く予期していなかったダイナミックな振る舞いであり,チャネルの生理的な機能を考える上で重要な知見をもたらすと考えています.

 

図の説明
(上)単離精製したKcsA の脂質膜中への再構成とAFM 観察
(下)開閉各pH 条件下で取得したAFM 画像と,開閉と連動した集合離散の模式図

 

利益相反:全演者はこの研究において,利益相反に関わる事項はありません.