日本生理学雑誌 第76巻 3号

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表紙の説明

第90 回日本生理学会大会(東京)
演題番号:1PK-170
演題名:ショウジョウバエ嗅覚記憶中枢における匂い応答のマッピング
Comprehensive Odor mapping in the Mushroom Body neurons in Drosophila melanogaster
演者:上岡雄太郎1,廣井 誠1,大倉正道2,中井淳一2,多羽田哲也1
所属:1東京大学・分子細胞生物学研究所,2埼玉大学・脳科学融合研究センター

ショウジョウバエ嗅覚三次神経はキノコ体(Mushroom body)と呼ばれ,約2500 個の神経から成る.このキノコ体は匂い情報を報酬・罰情報と連合させる重要な役目を持ち,また階層的には哺乳類の梨状皮質等に相当する.キノコ体は匂い情報を少数の細胞にコードしていることが知られているが,その匂いへの全細胞の応答が網羅的に観察されたことはない.今回,私達はカルシウムインジケーターであるGCaMP7 を用い,キノコ体の神経約2500 個の匂いへの応答を観察した.従来は一平面でしか観察出来なかったが,ピエゾ素子を用い奥行き方向に高速でスキャンすることによって4D カルシウムイメージングに成功した.

A: 実験時の模式図を示す. ショウジョウバエを二光子顕微鏡下に固定し, 頭部のクチクラを剥がし脳を露出させる. 生理食塩水で脳の乾燥を防ぎ, 水浸レンズで上部から観察する.
B: 実際に得られた4D 画像の内, 匂い応答したフレームの3D 画像を示す. myr-tdTomato(マジェンダ), GCaMP7(緑)がキノコ体特異的に発現されている. myr-tdTomato を参照画像として, ブレを補正し, 細胞を同定している.
C: 2000 個以上の細胞での匂いへの応答. 6フレーム目に匂い(3-Octanol)を提示している(1 フレーム約3.1 秒). この例では約20%(712/3575個)の領域が有意に応答している.
D: 空気と2種類の匂い(行動実験で主に用いられる4-Methylcyclohexanol と3-Octanol)をそれぞれ3 回ずつハエに提示し, Cの様な応答を全部で9つ記録した.これらのデータに対し主成分分析を行ったところ, 2 種類の匂いに対する脳内の応答が定量化・可視化された.

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