日本生理学雑誌 第76巻 2号

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表紙の説明

第90回 日本生理学会大会(東京)
演題番号:2PK-015
演題:「新たな蛍光カルシウムプローブGECO を用いたマウス心筋細胞の核内カルシウム動態の解析」
“Analysis of nuclear Ca2+transient in mouse cardiomyocytes with GECO, a recently developed genetically encoded Ca2+ indicator”
演者:中尾 周,西谷(中村)友重,若林繁夫
所属:国循研セ・分子生理

心臓において細胞内カルシウム(Ca2+)は心筋収縮,遺伝子発現,細胞死など多くの細胞機能を調節する重要な因子として働いている.特に,収縮を繰り返す心筋細胞では,細胞質内Ca2+ は拍動のたびにダイナミックに増減するのに加え,受容体刺激など様々な刺激によっても変動する.一方,核内Ca2+ は心肥大をもたらす遺伝子発現にかかわっていることが示唆されているが,拍動や受容体刺激の際にその濃度がどのように増減し調節されているのか詳しく分かっておらず,また,細胞質内Ca2+ 制御との関係についても不明な点が多い.
今回,心筋細胞における細胞質内Ca2+ と核内Ca2+ の制御機構の関係を調べるために,合成Ca2+ 指示薬Fluo-4/AM および新たなCa2+ 感受性蛍光タンパク質GECO を用いて,マウス心筋細胞の細胞質と核におけるCa2+ 濃度変動を解析した.なお,GECO は異なる蛍光波長と細胞内局在をもつ蛍光タンパク質を組み合わせることにより,細胞質と核のCa2+ レベルの動きを同じ細胞で同時に調べることができる特長をもっている(図A).解析の結果,心筋拍動を誘発する電気刺激を加えると,核内のCa2+ レベルは細胞質内よりも60 msec. 程度遅れて増減し,その振幅は細胞質内より小さかった(図B).つまり,拍動のときの核内Ca2+ は核膜孔からの流入を介して,細胞質内Ca2+濃度を調節するバッファーとして働いているのではないかと推測された.一方,ATP による受容体刺激で誘発したCa2+ レベルの増減は,核と細胞質で時間的な差はみられなかったものの,振幅は核で有意に高かった (図C).このことから,核には細胞質とは区別される独自のCa2+ 制御機構が存在すると考えられた.以上の結果より,心筋細胞の核内Ca2+ 濃度の調節には,拍動時と受容体刺激時で異なる機構が働いていることが示唆された.

図A:G-GECO1 を細胞質にNLS-R-GECO を核にそれぞれ発現するマウス培養心筋細胞の共焦点レーザー顕微鏡写真.略号:AR, adrenergic receptor; IP3, inositol 1,4,5-trisphosphate; IP3R, inositol 1,4,5-trisphosphate receptor; NucEn, nuclear envelope; RyR, ryanodine receptor; SR, sarcoplasmic reticulum.

利益相反:全演者はこの研究において,利益相反に関わる事項はありません.