生命の理: いのちのことわり

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私たちは生きています。 お腹が空いたり1暑いと汗が出たり2運動したら心臓がドキドキします3恋をすると胸がキュンとし4失恋した夜は涙が止まりません5それでもいつかは眠くなります6。そのような時、私たちの体の中ではいったい何が起こっているのでしょう? それぞれの説明をクリックして読んでみて下さい。皆さんが「あれっ?」「なんで?」と思うところは実はまだよくわかっていません。このようなことがこれから生理学研究の対象となるのです。

1. お腹が空いたり

pict20051124004818私たち生物が生きていくためにはエネルギーが必要です。心臓、筋肉、消化管などあらゆる臓器を構成する細胞は、主に血液中のブドウ糖を分解してエネルギーを得ています。特に、脳を構成する神経細胞は、エネルギー源としてブドウ糖しか利用することができません。血液中のブドウ糖濃度が低下すると、神経細胞の活動は次第に低下し、ついには死んでしまいます。そこで、脳や体中の細胞に安定してエネルギーを供給するために、私たちの体には血液中のブドウ糖濃度を一定に保つさまざまなメカニズムが備わっています。そのようなメカニズムのひとつとして,脳にある満腹中枢を抑制し、摂食中枢を働かせることにより、「お腹がすいた」という感覚を作り出す機能があります。その結果、私たちは、どこかに食べ物がないかと、目、耳、鼻などあらゆる感覚を駆使して探索します。近くに食べ物がなければ動き回ります。人間ならば、冷蔵庫の扉を開けるかもしれません。野生の肉食動物ならば、獲物を見つけると、あるものは待ち伏せし、あるものは走り、飛びかかり、捕らえます。つまり、私たちの脳や筋肉の主要な働きは、食べ物を獲得する目的のためにあるといっても過言ではありません。

2.暑いと汗が出たり

pict20051124004900「暑い」ときにはクーラーをつけたくなるかもしれませんがちょっと待って下さい。私たちの体にはクーラーなしでもそう簡単には体温が上がらないような働きが備わっています。それが汗です。汗の大部分は水です。それが体の表面から蒸発するときに気化熱として熱を奪ってくれるのです。体重70kgの人が炎天下に10分間いると体温が1℃上昇するはずですが、100gの汗を蒸発させればこの体温上昇を抑えることができます。汗をかくと体がベタベタして気持ちが悪いかもしれませんが、このように大切な役目があるのです。汗をかくことを嫌がらずに楽しんでみましょう。

 

3. 運動したら心臓がドキドキします。

pict20051124004915運動をすると私たちの体を構成する組織がエネルギーを普段より多く消費するので組織が必要とする酸素の量(需要)が増加します。それに応じて、酸素を各部位に運ぶ血液を送りだす心臓ポンプの働きが高まります。すなわち、心臓が収縮する力を増して一回の収縮で送りだす血液の量(一回心拍出量)を増大させ、回数(心拍数)の増加とあわせて、1分間当たりに心臓から送りだされる血液量(分時心拍出量)がグンと増加します。このように心臓ポンプが強くなり心拍数が増加した状態を私たちはドキドキと感じるのです。非常に強い運動をした時、心拍数が2-3倍にまで上がって、一回心拍出量も増加する結果、分時心拍出量は5-6倍にもなります。もちろん運動に限らず、試験を受けている時のように精神的な緊張も同様の変化を起こします。この時には交感神経終末からノルアドレナリンという神経の情報伝達物質が分泌されて心臓をドキドキさせています。

4. 恋をすると胸がキュンとし、

pict20051124004932恋をすると感情の変化に関係する中枢神経系の活動レベルが上昇し、精神が高揚します。また、自律神経も交感神経が非常に優位の状態になり、運動したときのように胸がドキドキします。しかし、心臓の筋肉に血液を供給している冠動脈がその心臓のドキドキに見合って十分拡張しないと少し虚血気味(心筋に血液が十分に供給されない)になってごく軽い狭心症(冠動脈が一時的に細くなる)のような状態になって胸がキュンとすることもあるかもしれません。ほかにも、手がふるえたり、手のひらに汗をかくのも交感神経の働きによるものです。

5. 涙が止まりません。

pict20051124004947まぶたの裏側の耳側寄りには小指頭大の腺(涙腺、るいせん)があり、そこで赤血球などの大きな成分が血液から除去され、透明な液体である涙が生成されます。涙腺からは起きている間は毎日0.5-1.0 ml(1分間あたり約0.001 ml)の涙が分泌されていますが、目から流れ出ません。分泌された涙はまぶたの鼻側寄りにある小さな穴(涙点)から鼻の中に排出されるためです。このように少量の涙で目の表面が薄くおおわれているので、目の乾燥(ドライアイ)や細菌感染が防がれています。失恋したり、親しい方が亡くなったり、試験に落ちたりして「悲しい」という感情が生まれると、脳の中の神経回路が働き、涙腺を支配している神経(副交感神経)の活動が促されます。そうすると鼻への排出量をはるかに越える大量の涙が分泌されるため、涙が目からあふれて流れ出ます。「悲しい」という感情が続くと、涙の分泌も止まらなくなります。また、「嬉しい」時にも同様の涙の分泌が起こります。

6. それでもいつかは眠くなります。

pict20051124005005人は誰でも夜になると眠くなります。一度寝付くと6-8時間は眠り続けますが、朝になると目が覚めます。このような睡眠は毎日訪れます。睡眠の周期とタイミングを調節しているのは生物時計と太陽の光です。生物時計は脳の中にあって、時計遺伝子の発現によって振り子が振られます。短い人生、睡眠はもったいないと思っている人がいますが、眠りは単なる休みではありません。睡眠中にむしろ活動が盛んになる機能もあります。心配事も睡眠によって、しばし忘れることができます。

7. まとめ

このような生きている仕組み、はたらき、理(ことわり)は全て生理なのです。日本生理学会では体の基本的な機能と仕組みを解き明かそうとしています。これにより、ライフサイエンスの進歩を目指しています。この活動を通じ、より健康な体づくり、病気の理解、治療、予防に貢献しています。