動物実験について

動物の尊い犠牲を通じて行われる動物実験は、生命現象の理解に大きな役割を果たし、 医学・医療に応用され、人類の健康と福祉にはかり知れない貢献をしています。 動物実験は開発された医療・医薬を人間に適用する前の欠くことのできないステップでもあり、今日、 その必要性と重要性はますます増大しています。 我々研究者が動物の命を大切に思う気持ちは多くの人々と同様で、実験に際しては動物の福祉と人道的取り扱いを 常に心がけています。 今後とも我々は、動物の使用に対して社会の皆様のご理解を得つつ、医科学研究の発展を通じて、 人類の健康と福祉の向上を目指す所存です。

はじめに

私たちの生存を守る医学の発達は動物実験によって成り立ってきました。 ヒトの健康と福祉を追求する医科学研究にとって動物実験は必須の手段です。 私たち人間が現在のように存在し生活できるのは、今までに行われてきた動物実験のおかげといっても過言ではありません。 一方で、動物の命を犠牲にする動物実験に反対する立場もあります。 実験に利用される動物がかわいそうという思いは人間として当然であり、 実際その感情は私たち研究者も共有します。しかしそういう感情を大事にするとともに、 自分たちが受ける医療や服用する薬がどのように動物実験に依存しているか、もし動物実験がなかったらどうだったか、 もし必要な実験が制約を受けることになったら今後どんな事態が予想されるか、といったことを理性的に判断することも大切です。 医科学研究における動物実験は国民が真剣に考える必要のある重要な問題です。 日本生理学会では会員のほとんどが動物実験に携わっています。 そこで私ども日本生理学会が動物実験をどう考えているか、見解を示しご理解を求めます。  

動物実験とは

1. 動物実験の目的・必要性

人類誕生以来、病気との戦いは絶え間なく続いています。医学研究はその勝利を偶然や奇跡 ではなく、科学的根拠に基づき実現することを目標としています。そのためには、まず人間の身体、臓器や組織、あるいは細胞が、どのように働いているかを研 究する必要があります。同時に、病気の原因とメカニズムの解明が求められます。また、薬や医療技術が開発されると、その薬が、あるいは技術が、いかに人体 に作用するか、副作用はないか等を細心の注意をもって調べる必要があります。これらの研究の多くは生体を用いることを不可欠とし、人間を用いた研究や試験 も行われます。しかし、人間を用いる研究には、当然、厳しい限界があります。やむを得ない策として、人間と同じ生命原理が働いて生きる動物に犠牲を求めま す。これは、我々が食物として動物を用いるのと同じ道理であり、動物を犠牲にして生きる人間の生の一面です。当然、我々研究者は、生命に対する畏敬の念を もとに、用いる動物を可能な限り人道的に取り扱います。また、開発された医療や薬が動物自身の健康と福祉にも多大の貢献していることを強調しておきます。

2. 動物実験の有用性

動物実験は医学の研究にきわめて有用です。その最大の科学的理由は、生命原 理が同じなので動物で得られた知識は基本的に人間にも適用し得ることです。20世紀中、平均寿命の延長と小児死亡率の低下はいちじるしく、病苦からの解 放、軽減も大きく進みました。これに寄与した医学・医療の進歩は多くの分野にわたり、ビタミン欠乏症の治療、抗生物質による細菌感染治療、インスリンの発 見と糖尿病の管理、天然痘・ジフテリア・はしか等のワクチン、人工透析による腎臓病管理、新しい薬物の開発、麻酔医学、癌の化学・放射線療法、冠状動脈バ イパス・ペースメーカー等の心臓病の医療、高血圧・動脈硬化の管理、臓器移植、パーキンソン病の医療、エイズなどレトロウイルス疾患の医療など、枚挙にい とまがありません。これらはいずれも動物実験の上に実現しており、これに止まらず動物実験に基づいていない医療はないと言っても過言ではありません。 では医学の進歩はこの程度で十分であり、もう動物実験は必要ないのでしょう か。残念ながら、癌、アルツハイマー病・ALS等の神経難病、感染症、免疫疾患、遺伝病などの未解明、未解決の難病は多く残っていますし、エイズ、 SARS、プリオン病などの新しい病気も次々と出現しています。地球環境変化や内分泌攪乱物質等の環境汚染物質が人間に与える影響の研究も進めなければな りません。近年の再生医学における動物実験は脊髄損傷で生じた肢の麻痺が治癒できることを示し、これまで不可能とされてきた神経系損傷の治療に明るい希望 が見えてきました。また、マウスやショウジョウバエで同定された遺伝子の知見が種々の難病や遺伝疾患の解明・治療に着々と応用されています。病気の解明・ 治療に直結した優れた疾患モデル動物の研究にも期待されます。むしろ動物実験の必要性、有用性が強まっているというのが現状です。

3. 生理学と動物実験

動物実験は医学のあらゆる分野で必要、不可欠ですが、とくに生理学においては必須です。 生理学は、生命の作動原理を理解することを目的とし、それによって健康と福祉の向上に貢献することを目指しています。さまざまな生命科学の分野がある中 で、生理学の特徴は分子・細胞レベルから個体レベルまでの生命現象を総合的に研究対象とし、「生きている」を実時間で研究することにあります。「生きてい る」過程の研究には動物実験が中心的な役割を果たします。また生理学は心臓や神経など各器官の個別の働きだけでなく、それらが統合されて個体の統一した生 命活動を実現させる仕組みを研究します。各器官の働きがどのように調和して個体機能が成り立つかを理解することは、個体の健康・病気を扱う医学・医療の重 要な基礎であり、その生理学的研究には動物実験が必須の役割を果たします。

4. 動物実験の実際

動物実験とはどのようなものかを以下に説明します。 使用される動物種は、ショウジョウバエ、魚類からラット、マウス、イヌ、ネコ、サル等の哺乳類に至る まで挙げればきりがありません。脊椎動物に限れば、国内でも世界的にみても、使用される動物は主にラットとマウスが90 %以上を占め、イヌ、ネコ、サルは全体の1%程度と思われます。 これら動物のほとんどは、研究用に育てられた動物を業者より購入して使用します。イヌ・ネコ・サルは 地方自治体において殺処分になるものの一部を合法的に譲り受けることもあります。 動物を研究に使うとき、研究者は動物を人道的に扱い、苦痛を与えないよう最大限に努力し注意を払いま す。飼育に際しては十分なスペースと食べ物・水を与え、施術に際しては麻酔を使い、痛みを起こしていないことを確認します。 実験にはいろいろなものがあります。取り出した細胞や組織・臓器を使う実験から個体を使う実験まで、 短時間で終わる実験から例えば何年にもわたり動物とつきあう行動実験まで、また、薬を与える実験、神経活動を記録する実験、それらの組み合わせ等、様々で す。 実験終了後は速やかに安楽死させます。安楽死の方法は、日本実験動物学会や国際基準によっています。 多くの場合、死亡した動物の臓器等は貴重な資料として保管され、さらなる研究の対象となります。 動物に対する一連の行為はすべて動物愛護法、鳥獣保護法、総理府指針、環境省の指導、文部科学省通達 に則り、日本生理学会の動物実験指針、各大学等の研究機関が設ける動物実験指針にしたがって実施されます。各研究機関で行われる動物実験は、すべて動物実 験(倫理)委員会の審査を受け、承認されることが必要です。 このようなルールが守られているという保障なしには、国内外の学術雑誌や学術集会において研究発表す ることは許されていません。また動物に施した実験上の処置は論文に記載するよう義務づけられており、世界中の誰でも見ることができます。研究の成果は、発 表しない限り世に知られて役立つこともなく、また研究者も価値を認められませんから、研究をした意味がありません。従って、研究者にとって動物実験のルー ルを守ることは、研究成果を発表するためにも不可欠なのです。なお、日本生理学会では、発表できる研究は「各研究機関の動物実験(倫理)委員会または本学 会の研究倫理委員会の審査を受けて承認されたものに限る」と定めています。  

動物実験 Q and A

1. 動物実験は人の医学に役に立たない?

ヒトと他の動物は種が違うので、動物実験の結果はヒトに適用できず役に立たないという主張がありますが、間違いです。地球上の生 命は大腸菌からヒトに至るまで根は一つであり、共通の生命原理によって貫かれています。もちろん種によって薬の有効量や効き方には差があります。しかし、 病気の起こる原因や治療法の基本原理は多くの点で人とサル・イヌ・ネコ等の脊椎動物の間で共通します。ですから、ヒトのために開発された治療や薬が、逆に ペットや家畜の治療にも使われるのであり、これは当然のことです。ヘルシンキ宣言(1964)がヒトを対象とする医学研究は動物実験に基づかなければなら ないと述べているのも、また、新薬は動物で十分に試された後にヒトに使われるのも同じ理由に拠ります。

2. 動物実験は代替法で十分に置き換えられるか?

動物を使わないですむ代替法がある場合は当然そうすべきというのが研究者のコンセンサスです。3つのRという動物実験の原則(別 項に説明)の1つのRです。代替法の研究は発展させる必要があります。実際、現代技術の粋を集めた人体モデル、コンピュータ・シミュレーションは医学教育 に大いに取り入れられつつあります。私どもはこの技術が動物実験の一部を代替えできるまでにますます発展することを期待しています。しかし、コンピュー タ・シミュレーションは生命現象から得たデータを入力してはじめて可能となるものですし、今のところ、未知の生命現象や病因を探る研究は直接生物を用いて しかなし得ません。一方、細胞培養や組織培養の技術の発展には目覚ましいものがあり、医学・生理学的研究はそれらを大いに活用していますし、新薬開発時の スクリーニング・テストにも使われています。しかし、心臓などの各器官や身体全体の機能を解明する研究や病気の原因、病態を調べる研究は、今のところ動物 実験に頼る以外はありません。新薬をヒトに使用する前に動物で試す必要は今後とも無くなるとは思えません。代替法によって動物実験の必要が全面的になくな る可能性は、少なくとも近い将来は期待できません。

3. 実験用に飼育された動物でないとデータは信頼できない?

生まれたときから管理され遺伝情報等の基礎データを持つ動物での実験は信頼できるが、素姓のわからないネコやサルでの実験データ は信頼できず、国際誌には掲載されない、という主張をする人々がいます。実験動物の適切な選択は、研究者が最も気を遣う点です。しかし、上記のような動物 である必要性は研究の問題やテーマによって大きく異なります。もちろん遺伝的にコントロールされた動物や無菌的に育てられた動物が必要な研究も多数ありま すが、その必要のない研究も少なくありません。逆に、特定の系統の動物が偏った結果をもたらす場合もあり、むしろ遺伝的にコントロールされていない雑種 や、年齢、遺伝、生育環境などが多様な動物からのデータが必要な場合すらあります。国際誌は、使われた動物がその研究に適切か否かはチェックしますが、上 記のことを基準にして論文の採否を決めることはありません。

4. 野生動物や保健所に収容された動物は使用すべきでない?

野生動物については、生態系を破壊するような捕獲は問題外であり、そういった形で捕獲された動物を生理学者が使うことはあり得ま せん。しかし現実に日本では大量の野生ザルが有害獣として、あるいは生態系維持などの理由で捕獲され殺されています。問題はこのような動物を科学研究に用 いることの可否です。殺処分される動物を使用することにより別途犠牲となる動物の数を減らすことができるので使うべきである、というのが私どもの考えで す。なお、研究にとって実験動物は安定して供給されることが重要であり、私どもは、野生ザルの生態系を保護しつつ実験用のサルを安定供給するという、サル の生態研究者と実験使用研究者が協力して現在進めている計画に賛同します。 保健所の収容動物についても、同様に、人類や動物のためであり、処分が決まっている動物を無為に殺さないという観点とその分犠牲 となる動物を減らすことができるという観点から、研究に用いてよいと考えます。近年、多くの自治体がイヌ・ネコの研究用払い下げを止めています。欧米では 払い下げが禁止されているというのが根拠とされているようですが、米国では州によって扱いが異なり、いくつもの州が払い下げを行っています。日本では、む しろ、私たち日本人が自らの価値観で是非を判断していく問題であると考えます。

5. 実験が重複し不必要な数の動物が使用されている?

実験に使う動物は必要最低限に抑えるというのは世界の研究者の合意です。もともと、研究者が2番煎じで発表もできず、評価もされ ない実験に貴重な時間と研究費と動物の命を無駄に使うことはあり得ません。一方、科学的事実が真理として確立するためには、特定の研究者の一回の実験だけ では不十分で、さまざまな角度から、またさまざまな方法での追試が必要です。時には、同じ方法を用いて確認する必要も生じます。またすでに確立した事実で も、教育上優れた実験は学生の実習などで実施されます。これらは必要な重複なのです。

6. 日本の動物実験は法規制がなく野放しである?

日本も米国や欧州諸国と同様、法規によって動物実験を管理しています。ただ、法規の枠組み・規制方式は国によって様々で、それに は文化、宗教、習慣などの違いが反映されていると思われます。類型的には、日本の方式は自主規制を主とした米国方式に類似します。 1973年にすでに「動物の保護および管理に関する法律(動管法)」が制定されました(1999年に改正され、動物愛護法と呼ば れるようになった)。これに基づき「実験動物の飼養及び保護等に関する規準」(総理府1980年)が告示され、基本指針となっています。その後、文部省が 国際医学団体協議会(CIOMS)の「動物実験についての国際規約」(1985年)に基づいて「大学等における動物実験について」(文部省通知、1987 年)を指示し、これを受けて、各大学・研究機関は動物実験指針を制定し、動物実験(倫理)委員会を設置しました。並行して各大学の動物実験施設も整備さ れ、動物の健康と福祉を考慮した飼育・管理がなされています。科学的な議論に基づいた動物の福祉・愛護・手術法に関しては国際的な協調がなされ、ほとんど 認識のずれはありません。事実、国際共同研究で多くの動物実験がなされていますが、各国の研究者からみても十分批判に耐えるシステムが構築されています。

7. 残酷な実験が密室で行われている?

皆さんはヒトの手術の現場に立ち会ったことがあるでしょうか?露出した傷口や血を正視できないことや、一般の人々が自由に出入り できないのは当然のことでしょう。しかし、ヒトの手術を密室で行われている残酷な措置だとか生体解剖とかと表現するでしょうか?研究者は動物を使用すると き、ヒトの手術と同様に麻酔・鎮痛薬を投与し、十分な苦痛軽減の処置を行います。麻酔なしの実験は現実に不可能ですし、動物が痛みで苦しむような状態では 信頼性のある実験結果も得られないのです。また論文発表に際して、動物に施した処置、動物の状態とそれを確認した方法などを具体的に記述することが求めら れています。

8. 霊長類は使用すべきでない?

サルは身体の構造・機能がヒトに近いため、医学生命科学の研究にきわめて重要な役割を果たしています。エイズ、SARSや肝炎等 の感染症の病因解明、ワクチン開発等の治療・予防法の研究に霊長類は欠くことができません。また、高次脳機能の解明、その障害を引き起こす神経疾患・精神 病の病因解明、治療・予防法の確立のためにも、サルを用いた研究の必要性はますます高まっています。

9. なぜ多様な動物種を使うのですか?

生涯あるいは何世代にもわたる観察が必要な老化や遺伝の研究にはライフサイクルが短い動物を用い、手術法の開発や臓器移植の研究 には大きさがヒトに近い中型動物(イヌ、ブタなど)を使う、というように、問題に応じそれに適した動物種を用いて研究します。例えば、心臓・血管系の病気 のメカニズムと治療の研究にはイヌ、ウサギ、ネコなどが用いられ、とくにイヌは心電図、心臓カテーテル、血管造影、冠血管血流測定などの診断技術や、冠状 動脈バイパス術、ペースメーカー埋め込み、心臓弁形成術、心臓移植などの手術法の開発に大きく貢献していますし、癌や感染症の研究にはマウス、ラット、ウ サギ、サルなどが、神経系の研究にはラット、ネコ、サルなどが多く使われています。

10. 3R とはどういう意味を持つのですか?

3つのRとは、Replacement(代替), Reduction(削減),Refinement(実験精度向上)の頭文字です。1959年に英国のRussellとBurchによって人道的動物実験 の3原則として提唱された概念です。それぞれ、可能な限り動物を使用しない実験に置き換える、実験に使用する動物数をできるだけ減らす、実験方法の改良等 により動物の負担を軽くしつつ有効な情報をより多く得られるようにする、を意味します。これは世界的にも基本的指針として受け入れられ、我々日本生理学会 の動物実験指針もこれを追求しています。また一般的ではありませんがResponsibility (責任)または Review(審査)を加えて4つのRという概念も提唱されています。日本生理学会会員は実験者の及び管理者の責任を重視し、動物実験(倫理)委員会の審 査を受け、3Rの原則のもとに動物実験を行っています。  

日本生理学会からの訴え

様々な種類の動物の尊い犠牲を通じて行われた生理学の教育、研究は生命現象の理解と解明 に大きな役割を果たし、医学・医療に応用され、人類の健康と福祉にはかり知れない貢献をしています。動物実験の必要性は今後とも変わることはありません。 日本生理学会会員一同は医学・生理学の教育の充実と研究の発展に一層尽くす所存ですので、そのための動物の使用に対して社会の皆様のご理解をお願いいたします。

1. 動物実験反対運動に対する見解

動物実験に利用される動物はかわいそうという一般の人々の素朴な心情は、十分に理解でき ますし研究者も同じ気持ちです。愛くるしい動物を実験に使うとき、あるいは何ヶ月も実験につきあってくれた動物を殺さなければならないときに、研究者の心 も痛みます。その意味で、動物実験に反対する人々の心情は理解できますし、皆さんこころの優しい人々であると信じます。一方、人間の生は他の動物の犠牲の 上に成り立っているという側面も直視しなければなりません。パックされた肉は手軽に購入できますが、裏には屠殺という現実があるように、我々が普段に享受 する医療の裏には動物実験が存在するのです。 動物実験に反対する多くの人々は、必要な医療は受けたいし肉も食べたいが、実験に使用さ れる動物がかわいそうだから実験は止めて欲しい、という考えであると思います。しかし、その願いは両立しません。残念ながら、規則正しい生活をしても病気 になる場合もありますし、未だに克服できずにいる難病も数多く残っています。結核のように、一時は下火になったと思われた病気も再び広がり、問題となって います。SARSやエイズなど新しい病気も絶えません。病気になったら自然のままに死ぬという訳にはいかず、少しでも良い治療法を開発したい、して欲しい という願望は当然のものです。やはり、動物実験を含む科学的手段を尽くして病気を解明し、治療法を開発すべきだと考えます。動物の使用に際して、研究者が 動物の福祉を重んじ、優しく人間的に扱うべきことは言うまでもありません。当学会においても研究倫理委員会を中心に動物福祉の充実に努めていますが、実際 に研究者がそう考え、行動していることは一般の方々に知っていただきたいと思います。

2. 実験研究用動物の安定的確保

動物実験は生理学のみでなく医科学全般にとって不可欠であり、研究の目的に応じて様々な 種類の動物が用いられます。わが国では、かなりの種類の動物が円滑に研究用に確保できるようになっています。しかし近年は研究使用への心情的抵抗を生み易 いイヌ、ネコ、サルなど中型実験動物の確保が危機的状況に陥っています。重要なことは、必要な研究に対して必要な動物が必要なときに供給され、研究に支障 が起こらないことです。このため、国民的合意のもとで、研究用動物が安定して確保できる体制を整える必要があります。 一つには、実験動物の繁殖・飼育・供給施設を確立することが重要です。これは安定供給と いう意味と、様々な実験に要求される質を備えた最適の動物を供給するという2つの重要な意味を持ちます。無菌的に育てられた動物、生後年齢が時間単位で記 録されている動物、遺伝子レベルまで把握されている動物等々、研究の要求に答えられる動物を供給する必要があるからです。二つ目は、様々な理由で地方自治 体等に捕獲され、殺処分になる動物の使用です。わざわざ繁殖飼育することなく、これら動物で十分に効果的な研究が行われる場合や、むしろ多様な遺伝子ソー スをもったこれら動物を使用した方がよい場合があります。また、研究によっては高齢あるいは大きく成長した動物が必要ですが、これらは繁殖によっては得難 いのでその供給源としても重要です。これには、犠牲となる動物を増やさないという点と、繁殖飼育に余分な税金を投入しなくて済むという大きなメリットがあ ります。以上の観点から、国民の皆様のご理解とご支持を訴えます。 動物実験の有用性、重要性を認め、動物実験が安全かつ整備された条件で行われる環境を整 えることは国が政策としてなすべきことであり、特に実験動物について、必要な系統の維持、安全の管理、安定した供給などは国がイニシアティブを取って行な うべきものと考えます。イヌ、ネコ、サルなどの中型実験動物の供給が近年危機に瀕している状況に対して、最近、文部科学省がナショナルバイオリソース計画 を開始させ、生命科学研究に必要な実験動物の供給安定化の方策を打ち出したことは大変画期的なことであります。私どもはその成果を期待し見守るとともに、 今後とも実験動物の供給安定化と動物実験の環境整備に一層努力し、これにより、子孫の健康を守るための基盤整備に寄与したいと思います。

3. ともに考えて下さい

私どもはここまで、動物実験の必要性や意義について説明をしてきました。まだまだ足りな い点があるかとは思いますが、今後ともできる限り私どもの立場・考え方を説明していく所存です。動物の命を奪うことの是非を問うわけですからどうしても感 情が刺激されます。しかし、動物の犠牲の上に生きるという人類の業に思いをはせた時、国民の皆様も、人間と動物の関わりについてご意見を持っていただきた いと思います。私どもはこの問題について皆様とともに考えていきたいと思っております。  

参考資料

文献

  • 篠田義一、社会的合意のために、学術の動向 9: 8-21,2002.
  • 特集「動物実験」、学術の動向 9, 2002.
  • 江連和久・金子章道、動物愛護という名の落とし穴、Scientia 22: 1-8, 2002.
  • American Medical Association (AMA), Use of animals in biomedical research: the challenge and response. AMA White Paper. 1988.
  • Russell, W.M.S. and Burch, R.L., The principles of humane experimental technique. Methuen, London, 1959.
  • Loeb, J.M. et al. Human vs animal rights in defense of animal research. JAMA, 262-17:2716-2720 (訳:前島一淑他,JAMA 日本語版8号,116-120, 1990).
  • Pringgle, L. The animal rights controversy. Harcourt BRACE & COMPANY, 1989 (訳:「動物に権利はあるか」、田邊治子,NHK出版,1995).

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