サイエンスカフェ報告

日時
2008年3月26日(水)

場所
cafe246 (青山一丁目)

テーマ
「時間」

パネリスト(敬称略)
北澤茂(順天堂大学)、柏野牧夫(NTT コミュニケーション科学基礎研究所)

参加者
55名

世話人
大塩立華

生理学会若手の会の主催によるサイエンスカフェは2006年の群馬における開催以来2回目となり、今回はsoranomado projectとの共催で実施した。soranomado projectはサイエンティストとアーティストからなる企画チームであり、これまでにシンポジウムや展示などの企画を開催している。今回の共催は、サイエンスカフェが持つ「カフェというインフォーマルな空間で科学に触れる社会に開かれたイベント」という特徴を最大に引き出すためであり、会場の選定から企画広報、会場演出にいたるまで、専門領域に特化せず一般的な視点で科学を楽しめる場を演出することを狙った。

プログラム

今回は「時間」をテーマとし「脳が刻む「時間」と本当の「時間」- 時間認知のメカニズム」を副題として、ゲストパネリストに順天堂大学医学部 北澤茂 先生および、NTT コミュニケーション科学基礎研究所 柏野牧夫 先生にご登壇いただき、以下のプログラムで開催した。

  1. Lecture1: 「脳の中の時間:腕の交差や目の動きで逆転する時間」順天堂大学 医学部 北澤茂 先生
  2. Lecture2: 「聴覚における時間:数十マイクロ秒から数十秒までの物理的・神経的・知覚的イベント」NTT コミュニケーション科学基礎研究所 柏野牧夫 先生
  3. オープンディスカッション、質疑応答
  4. インタビュー

レクチャーでは、各パネリストより最新の研究についての講義を、オープンディスカッションでは、パネリスト同士のトークセッションを実施した。インタビューでは、研究者の睡眠時間や幼少時代、研究の進め方についてなど、科学者の日常と研究生活に迫る質問を実施した。

会場・広報

会場となった青山一丁目のcafe246は本屋に隣接するカフェ&ダイニングスペースであり、オフィス街と文化施設に程近く、都会的で落ち着いた雰囲気のカフェである。この会場の選定理由は、学会大会の企画の一つであっても一般参加者に対して「学会」の持つ敷居の高さを感じさせない印象を与えること、および仕事帰りの一般参加者に立ち寄りやすいこと等を優先したことにある。

広報では“参加しやすいイベント”の印象を持たせるべく、イベント用フライヤーをポップなイメージでデザインした。これらのフライヤーは都内のサイエンスカフェ会場や書店、文化施設を中心として開催3週間前にリリースした。同時に、生理学会若手の会ウェブサイト上でも同様のデザインを用いた企画ページを開設した。また、生理学会若手の会メーリングリストへのリリースの他、サイエンスポータル(JST)のサイトへも掲載された。

 参加者

参加者の目標人数は30人であったが、プレスリリースから2日ほどで予約件数が目標人数を超え、会場容量である50名にも1週間足らずで達した。会場容量到達後、予約受付を終了してもなお1日に数名の問い合わせが続き(心苦しくもこれらの問い合わせは会場容量の理由でお断りせざるを得なかった)、当日は55名で立ち見が出るほどの参加者に恵まれた。

開催後のアンケートで回答があった37名のうち、科学以外の分野の参加者(会社員・教育・アート等)は19名であり5割を超えた。その内訳は会社員8名、アーティスト6名、その他(高校生、体育、医療関係など)5名であった。幅広い分野から、多くの参加者に恵まれたことは「時間」というトークテーマが広く一般的な関心事であることと、パネリストの魅力に加え、広報と会場選定も大きな効果をもたらしていると考えられる。集客は「より多くの人にサイエンスの魅力を伝える」というサイエンスカフェの使命に繋がる重要な要素である。目標人数を大幅に超えた今回の集客数および専門外の参加者を多く含む客層から、本サイエンスカフェが一定の使命を果たせたといえるかもしれない。ただし、サイエンスカフェの社会的意義をさらに深めるためには、より多くの専門外の参加者を集める必要があると考えている。次回以降は、研究者以外の参加者を65%以上にすることを目標とし、よりいっそう社会に開かれたサイエンスカフェの企画を進めたい。

 参加者アンケート

アンケート回収率は67%(参加者55名中37名)であった。その中で「トークは面白かったですか」という質問に対し36名が「すごく面白かった」または「面白かった」と回答し、他「普通」が1名、「面白くなかった」「まったく面白くなかった」は0名であった。また「今後もこのような企画があれば参加したいと思うか」の質問に対しては「思う」35名、「思わない」0名、その他(“興味があれば”1名、無回答1名)であり、これらの回答からトーク内容への高い評価とこの企画への今後への期待が確認できる。一方、「トークのわかりやすさ」については「すごくわかりやすかった」または「わかりやすかった」が24名であったのに対し、「わかるのとわからないのがあった」10名、「わからないことが多かった」「全くわからなかった」2名、無回答1名であり、内容の理解についてはばらつきが見られた。今後は内容理解のばらつきを抑えるための工夫(補足資料の充実等)を検討したい。

 今後に向けて

サイエンスは社会の理解と支えによって実現されている。サイエンスカフェは、社会に支えられているサイエンスを社会に還元するもっとも身近な場であると言える。今回の開催は目標とするイベントの質を保持できる範囲で可能な限り費用を制約したものの、生理学会若手の会の予算に加え、soranomado projectの共催、協賛2社からの支援、および個人出資を合わせて実現することができた。サイエンスを社会に還元する、という使命を持った企画としては、その開催費用をサイエンスの主体からフォローできなかったことは大変心残りでもあった。しかしながら、本企画が多くの集客に恵まれ、一定の評価を得ることができたことは、いくつかの課題を残しつつも今後の開催につながる確実な一歩となったのではないかと思う。

 謝辞

本企画は、株式会社フィジオテック、株式会社リバネスの2社からの協賛に支えられ実現されました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。