ワークショップ「メンター制度についての勉強会-女性研究者がメンター制度に望むこと」報告

標記ワークショップは大会2日目の6月3日18:45から札幌市男女共同参画センターに於いて男女共同参画委員会と生理学女性研究者の会(WPJ)の共催で行なわれた。会場が学会会場から離れており、午後のシンポジウムが18時30分まであったため、会員には参加しづらい設定であったが、34名の参加があった。

まず、水村男女共同参画推進委員会委員長より、大会時保育室設置に続く委員会の活動として、

  1. 女性研究者が直面している問題を相談することができるようなシステム(アドバイザー制度、またはメンター制度)を構築しようとしていること
  2. しかしメンター制度というものが実感としてよくわからないことから、すでにメンター制を実施しているところの話を聞くために このワークショップの企画がされたと

開催の経緯が報告された。

次に小田-望月委員から、メンター制には1)大学からわりふられた形=上司、2)願いでてメンターになってもらう制度の2つの形態が存在するが、 基本的に長期間にわたり1対1の利害を伴わない関係を意味することが紹介された。生理学会男女共同参画推進委員会としては、つまずいたその時々の助け=アドバイザー制度が有効ではと考えている。その際問題になるのは、相談者、助言者双方のプライバシーの守秘ということである。今回はこのような問題点を背景に、
1)アドバイザー制度が必要か、2)必要ならどういうシステムが望ましいか、についてあらためて、アンケートをとったうえで、3)助言者をどうやって選ぶか、も含めて、白紙からもう一度たたき台を作りたいということが説明された。

メインプログラムの講師、渡辺善子氏は、IBMのシステム・テクニカル・サービス・センター担当の理事で、女性能力活用のための諮問委員会「ジャパン・ウィメンズ・カウンシル」にリーダーとして参画し、社内外の女性社員および女子学生の啓発活動に取り組んでおられる方である。氏が入社された当時はまだ女性社員が少なく、入社しても次々にやめていき、気がついたら渡辺氏が一人残っていたこと。IBMも男性中心の運営であったが、パソコン市場拡大期に会社が危機的な状況になったことがきっかけで運営を徹底的に見直し、その一環として社員教育としてのメンター制も生まれてきたとのことであった。

渡辺善子氏の話の内容については、 WPJ会員の宮坂京子氏(東京都老人総合研究所)と小田?望月委員による以下のまとめをご参照いただきたい。

「IBMにおけるメンター制」講演まとめ

渡辺氏はまずメンタリングとコーチングの相違、上司による指導との相違点などから話を始められた。メンタリングの特徴は、組織を横断したインフォーマルな関係に基づくものであり、スキルの育成を目的とするコーチングとも、上司による評価とも異なるものである。この制度は当初幹部候補生として精鋭を教育することに始まり、今ではこれに加えて(男女を問わず)セールス系社員・テクニカル系社員それぞれに即したプロフェッショナル養成をめざしたメンタープログラ
ムがある。 そして、男性社員と比較して見習うべき存在の少ない女性社員に対して、業務報告する管理職とは別に、個人的かつ長期的なキャリア指導を行う育成制度が1998年より適応されるようになった。

日本IBMにおけるメンタリングのプロセスは以下のようになっている。

  1. メンターもしくはメンティーの上司は、ビジネス・ニーズやそれぞれの育成の観点からメンタリングへの参加を促す
  2. メンター候補者は、?メンター受け入れ希望” をプログラム推進者に提示する
  3. メンティーは、自分自身のプロファイルや希望内容等を整理し、上司にメンターとの組み合わせを依頼する
  4. 上司は部下のリクエストに対応したそれぞれの適任者となり得るメンターやメンティーを探し出す
  5. メンター/メンティーはお互いの目標が合致したことを確認し、Mentor Agreement(注)を締結する。
    (注)メンタリングの目的、役割、効果の測定方法、達成する Skill目標、成功のCriteria、指導方法、守秘義務や情報共有方法
  6. メンター/メンティーは、メンタリングを実施する。適宜、チェックポイントをとって進捗を相互に確認する
  7. 完了。 メンティーは、完了確認を行い、成果をドキュメントにする

メンタリングは3~5年のスパンで設定される。

メンター制度は、助言を受ける側(メンティ/プロテジーと呼ぶ)にメリットがあるだけでなく、メンターの側にも、メンティーへの指導を通して、人を育て、 新しい可能性などを発掘する満足感を味わえる、反対にメンティーから新しい情報や啓発を受けることも多々ある、世代、組織を超えた人的ネットワークが構築され、今後の活躍に極めて大きな力になる、などメリットがある。
メンティー/プロテジーは、受身ではなく、メンタリングを通じて何を達成したいかの確固たる目的意識や積極的な向上の機会を求めること、有効なメンタリングのためには上司やメンターに対して心を開き、自身のキャリア・プラン達成を共有することが求められる。
ところで、日本IBMで調べた女性のキャリアアップの阻害要因の第1位は、意外にも第2位の「仕事と家庭のバランス」をしのいで、「10年後に自分が何をしているか、どのポジションにいるか、ロールモデルもおらず、将来像がみえない」ということだった。IBMではこれらの問題を解決するため、ビッグ女性フォーラムを開催し、ロールモデルをたくさんみせる、在宅勤務を推進する、女性のメンタリングを推進する、インフォーマルなメンタリングカフェなどの設置をおこなっている。メンタリングカフェでは、普段仕事では接しないようなエグゼクティブな人の周りを3-8人ぐらいの相談者で囲み、ざっくばらんに一人ずつの相談内容について話し合う形式で、目標・キャリアパス・ライフ&ワークバランスなどについて語り合う。
さらに近年IBMでは、少年期からの将来像形成を視野に置き、女子中高生を対象に夏休みに数日間の科学セミナーを開催している。