ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)は3つのクラスから構成される脂質リン酸化酵素ファミリーです。このうちクラスI(p110α, p110βなど)は、細胞の増殖、分化、遊走、生存に必須であることが知られています。今回私達は、これまで生理機能が不明であったクラスIIについて、PI3K-C2αのノックアウトマウスを作出し、血管形成の異常から胎生致死となること、内皮特異的コンディショナル欠損マウスの解析等から、解離性大動脈瘤やアナフィラキシーを発症しやすく、血管新生の減弱等の異常を示すことを見出し、血管形成・血管新生と血管の恒常性維持にPI3K-C2αが必須であることを明らかにしました。PI3K-C2αは細胞内の初期エンドソーム、クラスリン被覆小胞及びトランス・ゴルジ装置に局在し、細胞内小胞輸送および小胞上でのシグナル伝達に必須の役割を果たします。たとえば、PI3K-C2αは接着分子VE-カドヘリンが細胞内で作られたあと、小胞輸送によって内皮細胞間接着部位へ配置されるのに必要であり、血管内皮細胞間接着に必須の役割を担います。また、血管内皮成長因子VEGFの受容体が刺激後内在化され、エンドソーム上で低分子量G蛋白RhoAを活性化し、その下流においてVE-カドヘリン結合の安定化と血管内皮バリア機能を高めることや、細胞遊走にもPI3K-C2αが必要なことがわかりました。したがって、PI3K-C2αは、血管形成と血管機能の恒常性維持に重要な役割を担い、血管疾患の新しい治療標的となることが期待されます。 Yoshioka K., et al. (Takuwa Y.) Nature Medicine 18:1560-1569, 2012
Yoshioka et al., Endothelial PI3K-C2a, a class II PI3K, has an essential role in angiogenesis and vascular barrier function.
Nature Medicine 2012 in press.