085.「運動」をストップさせる大脳基底核の神経経路の働き

 脳の深部にある大脳基底核が障害されると、「運動」に異常が生じます。これまでの私達の研究で、大脳基底核にある線条体と淡蒼球をつなぐ線条体−淡蒼球路(図A点線赤丸)を無くした遺伝子組換えマウスを調べたところ、「運動」が増加していました。これまでの説では、線条体−淡蒼球路を無くすと、ブレーキの役割をしている黒質網様部の活動が減り、ブレーキが外れるため「運動」が増加すると考えられていました。

 今回、線条体−淡蒼球路を無くした遺伝子組換えマウスを使って、黒質網様部の活動を計測しました。これまでの説とは異なり、黒質網様部の自発的な活動は変化しませんでした。ところが、大脳皮質を刺激して「運動」の指令を模倣したところ、正常であれば黒質網様部に「早い興奮−抑制−遅い興奮」という三相性の反応が見られますが(図B左)、線条体−淡蒼球路を無くした場合は「遅い興奮」が無くなっていました(図B右)。この結果から、線条体−淡蒼球路は黒質網様部に「遅い興奮」をもたらし、「運動」をストップさせており、この経路が無くなると「運動」を止めることができなくなると考えられます。 Sano H., et al., J Neurosci, 33(17), 7583-7594, 2013

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(A)大脳皮質からの「運動」の指令は、大脳基底核の3つの経路を通る。

大脳皮質からの「運動」の指令は、大脳基底核の直接路、間接路、ハイパー直接路の3つの経路を通り、黒質網様部に伝えられます。今回の遺伝子組換えマウスでは、間接路の途中で線条体と淡蒼球をつなぐ線条体-淡蒼球路(点線赤丸)を無くしています。

(B)出力部の「遅い興奮」が無くなると、「運動」のストップ機能が消失し、「運動」が過多になる。

線条体−淡蒼球路を無くした遺伝子組換えマウスでは、黒質網様部での「遅い興奮」が無くなり、「運動」をストップさせることができず、余分な運動が増えたと考えられます。このことから間接路には「運動」をストップさせる機能があることが分かりました。