外界の危険を察知しそれを回避することは生命維持において最大の重要事です。イオンチャンネル・受容体の一つであるTRPA1は、感覚神経に存在し刺激性の化学物質によって活性化されると痛みや行動抑制を引き起こすことが知られていました。たとえば、皮膚に付着したホルマリンによる痛み、気道に侵入したタバコ煙による呼吸抑制です。今回我々は行動試験によって、TRPA1欠損マウスがホルマリン、タバコ煙、ワサビ成分の蒸気で満たされた部屋へ平気で入ってしまうことを発見しました。野生型マウスの鼻腔内にTRPA1阻害剤を投与すると欠損マウスと同様の回避行動障害が起きました。また、TRPA1欠損マウスでは睡眠中にホルマリン蒸気を与えても覚醒促進が起こりませんでした。TRPA1は三叉神経の鼻腔内枝である前篩骨神経に存在しており、実際ホルマリンを短時間吸引しただけで三叉神経が著明に活性化されることも確認しました。すなわち、TRPA1は空気中の危険物質を検出し、これを体内に取り込んでしまう前に積極的な回避行動をとらせる最初期警報装置(図参照)の役割を果たしている、と考えられます。
Yonemitsu T., et al., Sci Rep 3, 3100; DOI:10.1038/srep03100 (2013).