073. 2型糖尿病危険因子Cdkal1の生理機能の解明

Cdk5 regulator subunit associated protein 1-like 1 (Cdkal1)遺伝子内に存在する特異的な一塩基多型変異は、インスリン分泌の低下ならびに2型糖尿病の発症と有意に相関する。しかし、これまでCdkal1の生理機能は全く解明されていなかった。今回筆者らは、Cdkal1はtRNAの修飾酵素であり、また、Cdkal1を膵臓β細胞特異的に欠損させたマウス(Cdkal1 KO)は、2型糖尿病様の表現型を呈することを発見した。この結果は米国科学雑誌Journal of Clinical Investigation (doi:10.1172/JCI58056)に掲載された。

Cdkal1は、リジンコドンAAAおよびAAGに対応するtRNAであるtRNALys(UUU)を特異的に認識し、アンチコドン近傍の37番アデニンをチオメチル化する。Cdkal1によるtRNALys(UUU)のチオメチル化は、AAAとAAGコドンの誤翻訳を防止していた。プロインスリンはリジン残基で切断され、分泌型インスリンになる。そのため、Cdkal1を欠損したβ細胞では、プロインスリンのリジン残基の誤翻訳により、プロセッシングできない異常インスリンが産生された。その結果、Cdkal1を欠損したβ細胞では、成熟したインスリンが減少し、さらに異常インスリンの蓄積による小胞体ストレス応答が見られた。これらの原因により、Cdkal1 KOマウスの耐糖能が低下した。さらに、高脂肪食を摂取したCdkal1 KOマウスでは、小胞体ストレスがさらに亢進し、インスリン分泌の低下及び耐糖能の悪化が見られた。以上のことから、Cdkal1遺伝子に特異的な変異を持つヒトにおいても, tRNALys(UUU)の修飾異常によるインスリンの合成異常が、2型糖尿病発症リスクの増大に寄与すると考えられた。
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図の説明

A. tRNALys(UUU)の二次構造を示す。37番アデニン(A)およびチオメチル化(ms2t6)は赤字で示している。B. Cdkal1はアデニン(左)をチオメチル化する。チオメチル基は赤字で示している。C. Cdkal1によるチオメチル化の生理意義。tRNALys(UUU)のチオメチル基はリジンコドン(AAA)と化学結合を形成することによりコドンーtRNA間の結合を安定させる。Cdkal1による修飾がなくなれば、コドンーtRNA間の結合が弱くなり、誤翻訳が生じる(左側)。その結果、インスリン合成が低下するとともに、小胞体ストレスが亢進し、最終的に2型糖尿病を発症する(右側)。