我々の脳は両眼で得られた情報を統合し、再構成して三次元的感覚を作り出す仕組みを備えています。今回我々は、一次視覚野で両眼視の処理に関わると予想される新しい構造を発見しました。大脳皮質は顕著な6層構造を持つことはよく知られていますが、層とは垂直方向に「カラム」と呼ばれる機能単位が存在することも分かっています。左右の網膜からの情報はそれぞれ、大脳皮質一次視覚野の「眼優位性カラム」と呼ばれる構造に別々に入力されます。またそれぞれの眼優位性カラムの上層中央付近には神経活動の盛んな「ブロッブ」と呼ばれる特殊な構造があることがわかっていました。我々は、(1)ブロッブが上層のみならず下層まで続いていること、及び(2)4C層でそれぞれの眼優位性カラムの境界付近に際立った構造(ボーダーストリップ)が存在することを発見しました。これらの構造は、サルの片目を遮蔽して3時間以内の急性期に、一次視覚野で神経活動依存的に発現が調節される遺伝子(zif268及びc-fos)を調べることにより可視化されました。眼優位性カラムの中に新しい構造が発見されたのは、ブロッブの発見以来実に28年ぶりのことでした。(Proc Natl Acad Sci USA, 2009 Jul 6 [Epub ahead of print])
図の説明:マカクザル一次視覚野のモデル図。従来のモデル(左)に対して、ブロッブ構造が6層まで続いていること、及び4C層のカラム境界付近にボーダーストリップ構造が存在することが新たに明らかになりました(右)。