グルタミン酸受容体の過剰刺激による神経細胞死は過興奮性毒性と呼ばれ、虚血やてんかんなどの病態に深く関連していることが知られている。今回我々 は、グルタミン酸受容体の持続的な活性化が神経細胞の膨張をもたらしてネクローシスを引き起こすメカニズムを検討し、容積感受性外向き整流性(VSOR) Cl–チャネルが重要な役割を果たしていることを明らかにした。VSORチャネルは細胞膨張によって活性化され細胞容積調節(膨張 から正常容積への回復)を担うチャネルであるが、過興奮刺激によっても活性化される。過興奮時に見られる神経細胞の持続的な膨張には、VSORチャネルを 介するCl–の流入が必要で、このチャネルを薬剤により抑制すると過興奮による神経細胞の膨張もネクローシスも抑えられる。また細 胞死を引き起こさない短時間の過興奮刺激の後には、膨張した神経細胞は元の容積に回復することができるが、VSORチャネル阻害剤によってこの回復は抑制 された。このようにVSORは過興奮が長時間持続する場合には傷害を悪化させ神経細胞のネクローシスを誘導し、短時間でマイルドな場合にはその後の回復に 働くことが明らかとなった(Journal of Neuroscience 27: 1445-1455, 2007)。
図の説明
過興奮性神経細胞傷害におけるVSORチャネルの役割。グルタミン酸受容体(GluR)が過剰に活性化されると、GluRを介するカチオンの流入 と、VSORチャネルとGABAA受容体を介するCl-の流入によって細胞内への水の流入が駆動され、神経細胞は膨張する(過程??)。過興奮刺激が持続す るとさらにVSORチャネルの活性化が促進されてCl-流入経路が増加するため膨張も促進され(過程?? NVI : necrotic volume increase)、細胞容積調節能RVD(regulatory volume decrease)が阻害され、ついには形質膜が破れてネクローシスに至る(過程??)。一方、細胞外のグルタミン酸が除去されると、VSORチャネルを介 するCl-流出とK+チャネルを介するK+流出によって水の流出が駆動され、神経細胞は元の容積に回復する(過程??)。