神経細胞は軸索で活動電位を発生する.しかし,軸索のどこで活動電位が発生するのか,さらにその場所が神経機能の発現にどのような意義をもつのかに ついては明らかでない.今回我々は,左右の耳に到達する音の時間差を検出することで音源定位に関わるトリの層状核(哺乳類の内側上オリーブ核に相当)にお いて,活動電位の発生部位を調べ,その機能的意義を検討した.層状核では活動電位の発生する場所は細胞毎に異なり,低音を担当する細胞では軸索上の細胞体 近く(5 µm )であるのに対して,高音を担当する細胞では細胞体から離れた場所 (50 µm )であった.高音の情報は時間的加重により細胞体で大きな持続的脱分極を生じるため,Naチャネルを不活性化し,細胞の興奮性を損なう.しかし,活動電位 の発生部位が遠くにある場合,この脱分極は軸索で電気緊張性に減少するため,細胞は高い興奮性を維持することができる.このように層状核では活動電位の発 生部位が細胞毎に異なることにより,幅広い周波数の音情報を正確に処理することができる.今回の結果は,活動電位の発生部位が神経細胞の情報処理精度を高 めるように配置されていることを示している. Nature 444, 1069-72 (2006)
図説
A-B, 層状核神経細胞におけるNaチャネル分布.A, 高音を担当する細胞; B, 低音を担当する細胞.C, 軸索上の Naチャネル分布は各周波数領域の細胞毎に異なる