動物が学習や記憶をしている際に、海馬では神経伝達物質の一つであるアセチルコリン(ACh)の濃度が上昇します。このAChにより活性化されるムスカリン性受容体は、その阻害薬が健忘を引起すことから、記憶の形成に重要と考えられています。
今回私達は、記憶形成における細胞レベルの基礎過程と考えられているシナプス伝達の長期増強が、海馬内AChにより亢進するメカニズムを解明しました。
海馬は内側中隔核から、AChを放出するコリン作動性神経の投射を受けており、このコリン作動性神経を刺激してAChを放出させると、海馬神経細胞の興奮 性が上昇します。この時に長期増強を誘導すると、その増強率が増大しました。またムスカリン性受容体のサブタイプの一つであるM1受容体を全く持たないマ ウスを用いた解析から、この長期増強の亢進にはM1受容体が必要であることが分りました。
このことは、同じ情報でも、AChにより神経興奮性が上昇した時に入力された方がより大きな長期増強を誘導できるということから、記憶形成におけるコリン 作動性神経とM1受容体の存在の重要性を示唆しています。 (Journal of Neuroscience 25: 11194-200, 2005)