035.運動時にはたったコップ一杯の飲水で血圧が低下する?

運動中に水分を摂るとかえって体がだるくなったという経験をしたことはないでしょうか?本研究では、「運動時の飲水は血圧を低下させる」という仮説を検証しました。
運動時には熱放散のため皮膚血管拡張が生じます。しかし、脱水による血漿浸透圧の上昇は体温調節中枢に働き、皮膚血管拡張を抑制します。これは、運動時の 血圧維持には有利な反面、体温調節には不利な反応です。一方、脱水による高浸透圧は口渇感を引き起し、だから私たちは水を飲むわけですが、飲水直後、急速 に口渇感がなくなることを日常的に経験します。これは過剰な水分摂取を防ぐために、飲水による咽頭部刺激が反射性に高浸透圧による口渇感を抑制するからで す。それでは、脱水状態で運動時に飲水を行うと皮膚血管拡張反応はどうなるのでしょうか?
私たちは、学生を対象に室温30℃の部屋で自転車運動をさせ、しばらくして体温がほぼ定常値に達した後、200mlの温水を1分以内飲んでもらいました。 その結果、予め血漿浸透圧を10mOsm/kgH2O程度高くした条件では、飲水直後に飲水前の値に比べ皮膚血管コンダクタンスが約20 %増加し、平均血圧が5 – 10 mmHgも低下しました(図参照)。一方、対照条件では変化を認めませんでした。すなわち、運動時の飲水による咽頭部刺激は高浸透圧による皮膚血管拡張抑 制を解除し、その結果、血圧が低下することがわかりました(The Journal of Physiology 568: 689-698, 2005)。
以上の結果より、運動時の飲水による血圧低下を防ぐためには、脱水になる前から水分補給を心がけることが重要であると考えます。
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図の説明

飲水による皮膚血管コンダクタンス(皮膚血流量/平均血圧)と平均血圧変化。
飲水前3分間の平均値からの変化量を飲水開始時を0分として10分まで示した。#, 飲水前からの有意差 (P < 0.05)。値は被験者7名の平均値±標準誤差で表す。