034.逃走か? カタプレキシーか? オレキシン作動系は情動行動の選択に寄与する

喜びや驚愕,恐怖など情動刺激は,辺縁系や視床下部から脳幹への投射系を介して情動行動を誘発します.通常,情動刺激は筋緊張の亢進や逃走・逃避 (歩 行)行動などを誘発しますが,ナルコレプシーでは「レム睡眠様の筋緊張消失(情動性脱力発作;カタプレキシー)」を誘発します.この疾患では脳内神経ペプ チドの一つであるオレキシンが減少しています.しかし,オレキシンの減少がどの様なメカニズムで情動性脱力発作を誘発するのか?については未だ解明されて いません.
外側視床下部に存在するオレキシンニューロンは中枢神経系全体に投射していますが,私共は,「中脳へ投射するオレキシン作動系が歩行と筋緊張レベルを調 節する」ことを見出しました(Journal of Physiology, 568, 1003-1020, 2005).オレキシン存在下(正常・覚醒時)では,脳幹から脊髄に下行する歩行運動系や筋緊張促通系の興奮性が高く維持され,筋緊張抑制系の活動は抑制 されています.この抑制には脚橋被蓋核(PPN)や黒質網様部(SNr)のGABA作動性ニューロンが関与します.その結果,脳幹に到達する情動刺激の信 号は筋緊張亢進や歩行を誘発します(A).一方,オレキシンが減少すると,歩行運動系や筋緊張促通系の興奮性は低下し,筋緊張抑制系の興奮性が上昇しま す.従って,ナルコレプシーでは,情動刺激が筋緊張抑制系を駆動して情動性脱力発作を誘発すると考えられます(B).
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