大脳皮質錐体ニューロン上の樹状突起スパイン(棘突起)は、活動依存的な構造変化を起こし、これが記憶・学習の細胞基盤であると提唱されている。しかし、そのような構造変化と長期増強現象のようなシナプス可塑性がどう関係するのか、また、そうした可塑性が1個の樹状突起スパインレベルの入力特異性を持つか、といった問題は未解明である。今回、海馬CA1錐体ニューロンの単一スパインに、ケイジドグルタミン酸を2光子励起法で光分解して投与することで、長期増強の構造基盤を解析した。量子的放出に相当するグルタミン酸の光放出を繰り返すと、刺激されたスパインに選択的にその頭部が急速に増大した。スパイン容積増大は大型のキノコ型のスパインでは一過的だが、小型のスパインでは持続的だった。さらに、スパイン容積増大は、刺激されたスパインに選択的なAMPA受容体を介した電流の増加を伴っており、またNMDA受容体とカルモジュリンとアクチンの重合に依存していた。これらの結果は、棘が1個ごとに個別にヘッブの学習法則に従うことを示している。さらに、小型のスパインが長期増強の好発部位であるのに対し、大型のスパインは長期記憶痕跡の物理的実態である可能性が示唆された(Nature 429: 761-766, 2004)。
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