マグネシウムイオン(Mg2+)は細胞内に豊富に含まれる陽イオンであり、 筋収縮、エネルギー産生、遺伝情報の保持・発現という最も基本的な生命現象に必須の役割を担っている。 細胞内遊離Mg2+濃度([Mg2+]i)は一定の範囲に調節されているが、その制御機構の詳細は明らかにされていない。 我々は、ラット心室筋の[Mg2+]iを 蛍光Mg指示薬(mag-fura-2)で経時的に測定し、 Na+-Mg2+交換輸送(Na+の流入と交換にMg2+を能動的に汲み出す)によって心筋細胞の[Mg2+]iが維持されていることを 見出した。この輸送は、[Mg2+]iのわずかな上昇で活性化され(0.9 mMから1.9 mMへの上昇で最大の50%活性化)、 細胞外Mg2+により抑制された(10mMで50%抑制)(Biophys. J. 88: 1911-1924, 2005)。 さらに、細胞内Na+により抑制され(40mMで50%抑制)、細胞外Na+により活性化された (55 mMで最大の50%活性化)(Biophys. J. 89: 3235-3247,2005)。 これらの結果は、[Mg2+]i制御の分子機構を理解する手がかりとなる。
図の説明
心 筋細胞[Mg2+]i制御機構の模式図。 Mg2+透過性チャネル(図の上側:おそらくTRP-M7あるいはTRP-M6チャネル)を通して流入したMg2+は、 Na+-Mg2+交換輸送(図の下側)により能動的に汲み出される。 Na+-Mg2+交換輸送の活性化因子を青で(Kaは最大の50%活性化する濃度)、抑制因子を赤で(Kiは50%抑制濃度)示した。