注意には、ボトムアップ性とトップダウン性のものが存在する。前者は赤い刺激が多数ある中で1つだけ存在する黄色い刺激のように、周囲と異なる刺激を目立たせて我々の注意を自動的に惹きつける。後者は知識や予測などにもとづいて特定の空間位置や刺激特徴に関心を向けることを可能にする。日常生活では片方の注意のみが働くわけではなく、2つの注意が同時に働くと考えられる状況も多くある。そのような場合、2つの注意機構は独立に働くのだろうか?それとも相互作用をもちながら働くのであろうか?このことを調べるため、各注意成分を分離することが可能な多次元視覚探索課題(図A)をサルに行わせ、腹側視覚経路の中間段階に位置するV4野より単一ニューロン活動を記録、解析した。ニューロン活動には2つの注意機構による影響が見られたが、トップダウン性注意の効果は特定のボトムアップ性注意条件のときのみに生じた(図B)。この結果は、各注意機構が独立に動作するのではなく、両者の間に状態依存的な相互作用が存在することを示している(The Journal of Neuroscience, 24: 6371-6382, 2004)。
図の説明
(図A):多次元視覚探索課題。課題では2種類の色と形から成る刺激配列が呈示され、その中には色及び形次元で異なる刺激が1つずつ含まれる。サルは、色または形次元で目立つどちらかの刺激を目標としてサッカード(矢印)を行うと報酬がもらえる。トップダウン性の注意条件は目標刺激を探す特徴次元を交代させることによって、ボトムアップ性の注意条件は受容野(灰色領域)にどちらの特徴次元で目立つ刺激を呈示するかによって、統制した。
(図B):V4野における単一ニューロンの応答例。ニューロン応答の色と線種は実験条件の違いを示す(図A参照)。色次元探索における細い灰色線は、比較を容易にするために形次元探索におけるニューロン応答を再描画したもの。ニューロン活動には、2つの注意成分による影響が見られた。探索条件にかかわらず、色次元で目立つ刺激は形次元で目立つ刺激よりも大きなニューロン活動を誘発している(ボトムアップ性の効果)。また、色次元で目立つ刺激に対するニューロン活動を探索条件間で比較すると、受容野内の刺激が目標となる色次元探索の場合ニューロン活動が増大していた(トップダウン性の効果)。しかしながら、形次元で目立つ刺激が目標となる場合は、そのようなニューロン活動の増大が見られない。このことは、トップダウン性の注意効果が特定のボトムアップ性条件で目立つ刺激に対してのみ作用することを示唆する。