024.体温調節機能をつかさどる延髄交感神経ニューロンの発見

交感神経系は脳から末梢器官へとシグナルを送ることによって、循環調節、体温調節、感染性発熱、エネルギー代謝など、私達の生体のさまざまな生理機能を制御しています。中枢から末梢への交感神経出力は脊髄に存在する交感神経節前ニューロンが担っており、さらに上位(主に延髄)には交感神経プレモーターニューロンが存在し、節前ニューロンに直接投射してその活動を制御しています。循環系調節をつかさどる交感神経プレモーターニューロンが吻側延髄腹外側野に存在していることはよく知られており、生理学の教科書にも記載されています。しかし、それ以外の交感神経機能をつかさどる交感神経プレモーターニューロンはこれまでに発見されていませんでした。
今回私達は、体温調節機能をつかさどる、新しい交感神経プレモーターニューロンの一群を同定することに成功しました。ラットを寒冷環境下に置いたり、脳内に発熱物質を投与すると、延髄縫線核に分布する小胞性グルタミン酸トランスポーターVGLUT3を発現するニューロンが特異的に興奮しました。神経トレーサーを用いた解析などから、このVGLUT3発現ニューロンは交感神経節前ニューロンに直接投射しており、さらにその経路を介して、褐色脂肪組織や尻尾といった末梢の体温調節器官を制御していることがわかりました (The Journal of Neuroscience 24: 5370–5380, 2004)。
この新たな交感神経プレモーターニューロンを同定できるマーカーがVGLUT3であることが明らかになったことで、体温調節機能やそれに関連した交感神経機能(感染性発熱やエネルギー代謝など)の中枢メカニズムの研究が大きく進展するものと期待されます。

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図の説明

体温調節機能に関与する交感神経経路は、延髄縫線核のVGLUT3発現プレモーターニューロンによって中継される。一方、循環系調節の交感神経経路は、吻側延髄腹外側野のプレモーターニューロンによって中継され、このニューロンにはVGLUT2が発現していることが報告されている。いずれのプレモーターニューロンもさらに上位の自律神経中枢から入力を受けているものと考えられる。図内写真は延髄縫線核に存在するVGLUT3免疫陽性ニューロン。IML: 脊髄の中間外側細胞柱。