代謝型グルタミン酸受容体は、記憶・学習などに重要な働きを持つ分子であると考えられています。この受容体は二量体として働き、シナプスに放出された神経伝達物質のグルタミン酸と結合することで、細胞内にその情報を伝達します。グルタミン酸結合により受容体の細胞外領域が構造変化を起こすことは知られていましたが、情報伝達を担う細胞内領域での構造変化は不明でした。
今回、受容体の細胞内部分のいろいろな部位に蛍光蛋白質を付加して、受容体細胞内領域の動的構造変化を解析しました。その結果、グルタミン酸が受容体に結合すると、受容体を構成するサブユニットそれぞれの細胞内領域には構造変化は起きないが、二量体間の配置変換が起きシグナルが次に伝達されることが明らかになりました。この研究の意義は、上述の知見が得られたことのみならず、「生細胞における膜機能蛋白分子の動的構造変化のリアルタイム測定」を確立した点にもあると考えています。ポストゲノム時代に蛋白の構造変化と作動原理を探っていくために、構造生物学的アプローチを補うものとして期待が持てるからです。(Tateyama, Abe, Nakata, Saitoh & Kubo, Nat. Struct. Mol. Biol. 11)。
図の説明
グルタミン酸が結合した際に起こる受容体の構造変化を示す。
グルタミン酸結合により受容体の細胞外領域の構造が変化する。これに伴い、細胞内領域(赤と青で示されるループ)で二量体間の配置変換が起こり、シグナルが次に伝達される。