188. ストレスで排便が起こる脳回路を解明 〜視床下部–延髄縫線核–脊髄排便中枢–骨盤神経 経路の活性化が排便を起こす〜

ストレスによって腹痛や下痢、便秘といった症状が生じたり、悪化したりすることはよく知られています。しかし、脳で生じたストレス情報が、どのような神経経路を通って大腸に伝わり、排便を変化させるのかは十分に分かっていませんでした。本研究では、ラットにおいて心理的ストレスによって起こる排便に関与する神経回路を特定しました。

私たちは、視床下部の室傍核(PVH)や背内側視床下部(DMH)に存在するニューロン群が活性化すると、結直腸運動が顕著な亢進することを見出しました。そして、この応答は、脊髄排便中枢におけるセロトニン受容体の遮断、ならびに骨盤神経切断によって消失しました。したがって、視床下部が活性化することにより生じる大腸運動の亢進応答は、延髄縫線核から脊髄排便中枢へ下行するセロトニン神経と、その下流に位置する骨盤神経を介して発現すると考えられます。加えて、延髄縫線核でオキシトシン受容体を遮断すると反応が抑えられ、視床下部由来のオキシトシンによる入力が関与していることが示されました。

さらに、化学遺伝学の技術を用いて、PVHやDMHから延髄縫線核へ至る神経経路を選択的に抑制すると、水回避ストレスによって生じる排便が減少しました。

これらの結果から、心理的ストレスによる排便には、視床下部–延髄縫線核–脊髄排便中枢–骨盤神経からなる神経経路の活性化が重要であることが明らかになりました。

Involvement of the hypothalamus-raphe magnus-spinal defecation center axis in stress-induced defecation in rats

Yuki N, Sawamura T, Mori A, Yamaguchi H, Horii Y, Shiina T, Shimizu Y.

Communication Biology 9 (1): 411, 2026.

<図の説明>

ストレスによって誘発される大腸運動亢進を担う視床下部–延髄縫線核–脊髄排便中枢の下行性神経経路の模式図

ストレス信号は視床下部のPVH、DMH、DAを含む領域で処理され、そこから延髄縫線核へオキシトシン作動性入力が送られる。延髄縫線核のニューロンはさらに脊髄へ下行性投射を行い、脊髄排便中枢に作用する。このとき、脊髄排便中枢にはセロトニン作動性入力が加わり、その結果として大腸運動が亢進することが示されている。