神経間の情報伝達の多くは化学シナプスを介し行われています。味細胞では一部の細胞が化学シナプスの構造を有し、味神経への情報伝達を担うと想定されていましたが、その機能的役割は不明でした。本研究では化学シナプスにおいて重要な役割を持つSNAP25(Synaptosomal-associated protein, 25kDa)を味覚組織で欠失させた際のマウス味覚応答について調べました。その結果、5基本味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)のなかで、酸味に対する応答が減弱しましたが、他の味質への影響は見られませんでした。一方、舌における味覚組織について調べたところ、SNAP25欠失マウスでは酸味の受容を担う細胞(酸味細胞)の数が明らかに減少していました。酸味細胞の減少の原因について調べると、SNAP25欠損は酸味細胞の発生には影響がなく、その維持に問題があることがわかりました。これらの結果から、味蕾内の化学シナプスは酸味の情報伝達に関与するとともに、酸味細胞の維持にも関与することを見出しました。何らかの原因による味蕾内シナプスの脱落・欠損は酸味特異的味覚障害(sour ageusia)の要因の一つであるかもしれません。
Dual functions of SNAP25 in mouse taste buds
Horie K, Wang K, Huang H, Yasumatsu K, Ninomiya Y, Mitoh Y, Yoshida R
The Journal of Physiology. 2025. https://doi.org/10.1113/JP288683
<図の説明>
味蕾内でSNAP25を欠損するマウスでは、クエン酸や酢酸など様々な酸に対する味覚神経応答が減弱する。また、舌では酸味受容細胞の数が減少する。