176. 不適切な行動を止める脳内情報処理経路の全容解明

我々は日常、変化する状況に応じ、不適切な行動を抑制し、適切な行動を選択しています。この「反応抑制」には前頭葉を中心とした複数の脳領域の関与が示唆されていましたが、その詳細な情報処理経路は不明でした。今回、私たちは機能的磁気共鳴画像法fMRIおよび非侵襲的脳刺激である経頭蓋超音波刺激(TUS)や経頭蓋磁気刺激(TMS)を用い、反応抑制に関わるヒトの神経回路を調べました。健常被験者での「ストップシグナル課題」遂行中の脳活動をfMRIで計測し、さらに拡散強調MRIで脳領域間の解剖学的結合を調べました。その結果、一次視覚野(V1)から島皮質前部(daINS)、下前頭皮質(IFC)を経て大脳基底核(BG)/一次運動野(M1)に至る情報処理経路が明らかになりました。さらに、TUSとTMSの併用により脳領域間の因果関係を調べ、daINSは腹側後部IFC(vpIFC)に、vpIFCは前部IFC(aIFC)へ一方向に影響を与えることが明らかになりました。以上の結果から、反応抑制は、V1→daINS→vpIFC/aIFC→BG/M1という4段階の情報処理経路で実現されることがわかりました。特にdaINSが感覚情報統合と行動制御の橋渡し役を担い、vpIFCとaIFCが異なる役割を担うことで、効率的な反応抑制が実現されていると考えられます。

Multiple insular-prefrontal pathways underlie perception to execution during response inhibition in humans.
Osada T, Nakajima K, Shirokoshi T, Ogawa A, Oka S, Kamagata K, Aoki S, Oshima Y, Tanaka S, Konishi S.
Nature Communications 15(1): 10380, 2024.
https://www.nature.com/articles/s41467-024-54564-9
DOI: 10.1038/s41467-024-54564-9

<図の説明>

(A) 反応抑制を調べるストップシグナル課題。課題には、ボタンをできるだけ早く押してもらうゴー試行と、左右の矢印が出た直後に上向きの矢印に変わりボタンを押さないよう求められるストップ試行があります。

(B) 本研究により明らかになった反応抑制における情報処理の経路。視覚情報の認識から行動の停止まで、一次視覚野-島皮質前部-下前頭皮質(後部・前部)-大脳基底核・一次運動野に至る情報経路が明らかになりました。