174. 未成熟な精子が持つ「電気信号」の重要性を解明

我々はこれまで、精子では「電位依存性ホスファターゼ(VSP)」という分子が機能していることを見出していました(Kawai et al., PNAS, 2019)。VSPは膜電位を感知すると酵素活性を示し、イノシトールリン脂質(PIP2)という細胞膜の脂質量を変化させます。この機構は精子の運動制御に重要ですが、実際にVSPがどのような機構で精子の膜電位を感知するかは不明でした。今回、我々はマウスを用い、成熟段階の異なる精子を調べることで、VSPの作用が未成熟精子の段階で顕著なことを見出しました。また、VSPの電位感受性を操作した遺伝子改変マウスを作製し、その精子を調べました。その結果、未成熟精子の段階で酵素活性に異常が生じ、また成熟精子においても、その運動性にも影響が生じていました。

上記の発見は、未成熟な精子の「電気信号」が、細胞膜の適切な組成に重要であることを示しており、「電気信号」のもつ新たな意義を提示しています。

 

The Significance of Electrical Signals in Maturing Spermatozoa for Phosphoinositide Regulation Through Voltage-Sensing Phosphatase.  Kawai T, Morioka S, Miyata H, Andriani RT, Akter S, Toma G, Nakagawa T, Oyama Y, Iida-Norita R, Sasaki J, Watanabe M, Sakimura K, Ikawa M, Sasaki Y, Okamura Y.  Nature Communications 15:7289 (2024)

 

 

<図の説明>

今回未成熟の精子が電気信号を感知し、精子の脂質組成を制御することを明らかにしました。