歳をとるにつれて太りやすくなる、いわゆる“中年太り”はよく知られている現象ですが、そのメカニズムは分かっていません。今回の研究で私たちは、体内が栄養過多であることを脳に伝える飽食シグナルに応答して抗肥満作用を導く、視床下部のメラノコルチン4型受容体(MC4R)に注目しました。
MC4Rタンパク質を可視化できる抗体を作製し、ラットの脳におけるMC4Rの局在を調べたところ、視床下部の室傍核と背内側部に発現し、神経細胞が1本ずつ持つ一次繊毛というアンテナ状の構造体にMC4Rは局在することがわかりました。そして驚いたことに、MC4R局在一次繊毛は加齢に伴って退縮し、その退縮は高脂肪食摂取により加速し、摂餌制限によって抑制されました。
次に、遺伝子技術を使って、若いラットのMC4R局在一次繊毛を強制的に短くすると、代謝量が低下するとともに摂餌量は増え、結果として肥満を呈しました。また、このラットは、飽食シグナル分子であるレプチンによる摂食抑制効果が低下しており、肥満患者でもみられるレプチン抵抗性を示しました。
以上の結果から、加齢や過剰な栄養摂取によりMC4R局在一次繊毛が退縮するとMC4Rが減少して飽食シグナルへの感度が低下するため、代謝量が減少するとともに摂餌量が増加して太りやすくなるという、中年太りへ至るメカニズムを提唱しました。
Age-related ciliopathy: obesogenic shortening of melanocortin-4 receptor-bearing neuronal primary cilia
Manami Oya, Yoshiki Miyasaka, Yoshiko Nakamura, Miyako Tanaka, Takayoshi Suganami, Tomoji Mashimo, and Kazuhiro Nakamura
Cell Metabolism 36(5): 1044-1058, 2024.
<図の説明>
ラットの視床下部において、MC4R局在一次繊毛が加齢と共に退縮することが分かった(上段)。加齢や過剰な栄養摂取によりMC4R局在一次繊毛が退縮すると、MC4Rの発現量が減少して飽食シグナルへの感度が低下し、代謝量が減少する一方で摂餌量が増加することが中年太りの発症につながると考えられる(下段)。